ひらめきブックレビュー

シリコンバレー流投資の勝ち方 成長はソフトで決まる 『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』

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デジタル・トランスフォーメーション(DX)の重要性が強調されるようになってしばらくたつ。グローバルではマイクロソフトやアマゾン・ドット・コム、ネットフリックスといったIT巧者はもちろん、ウォルマートといった小売老舗企業などが最先端のシステムを活用しており、サービスやビジネスモデルが変革されるところまできている。だが、日本はどうか。本書『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』を読むと、日本はまだまだテクノロジーについての認識が深くないことを思い知らされる。

本書はシリコンバレーに集まる新技術や企業動向を説明しながら、テクノロジーがビジネスに与えるインパクトについて解説している。著者の山本康正氏は、三菱UFJ銀行ニューヨーク米州本部、グーグルでの勤務を経て、シリコンバレーで活躍するベンチャーキャピタリスト。

■テスラの真価はサービスにある

著者は投資家として、「10年、20年先の未来」を見ているそうだ。そのサービスや製品は20年後に多くの人に使われるものか、市場は大きくなるのか。そうしたポテンシャルを見極めるためには、損益計算書のようなファクトだけに頼らず、起業家の人となりも含めて観察し、未来を洞察する力が問われるのだという。

そして技術情報を見るうえではITの領域、ソフトウエアについて注目する必要があると指摘する。なぜなら、「消費者が求めているのはサービス」であり、サービスを提供するのは「ソフトウエア」だからだ。

例えば、イーロン・マスク氏が最高経営責任者(CEO)を務めるテスラというと日本では電気自動車(ハードウエア)メーカーと捉えられがちだ。しかし、テスラの自動車の真価はサービス機能が日々バージョンアップされるソフトウエアにある。バッテリーの持続時間や、ブレーキ性能向上が日々アップデート。停車中にネットフリックスが見られたり、クリスマスには音楽や映像で雰囲気も演出したりしてくれる。加えて、近年ではセンサーを頼りに自動車が運転者を乗せるために近づいてきてくれ(スマート・サモン)、2020年には降車後に自動的に駐車場に止める機能まで搭載されていくそうだ。

ユーザーは、車体そのもの(ハードウエア)ではなく、日々進化するサービス(ソフトウエア)に魅力を感じている。現在テスラはシリコンバレーで最も人気のある車になっているのだという。

■成功体験が足かせに

ソフトウエアやサービスの開発を重視することで、利益率は格段に上がる、というのが著者の主張のひとつ。「ハードウエア」×「ソフトウエア」×「サービスモデル」の組み合わせこそが、稼げるモデルの1つだという。ところが日本は過去の「ものづくり」への成功体験が足かせとなり、ソフトウエアへの意識が足りていないのではないか、という危機感が著者の根底にあるようだ。

確かに、いま様々な業界で「モノからコトへ」(製品そのものではなく、顧客に提供できる機能的価値を重視していく考え方)ということが言われている。とくに家電などを中心とした業界において「コトと顧客を結ぶ線」を意識し、試行錯誤を始めている企業もある。だが、価値提供はうまくいっていないようだ。顧客が求めているものをソフトウエアによって生み出すシリコンバレーの潮流から、学ぶべきことは大きいだろう。

今回の評者 = 倉澤順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。早大卒。

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