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ネット経済圏で急伸するメーカー Ankerが売れる理由 『Anker 爆発的成長を続ける 新時代のメーカー』

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「Anker(アンカー)」というブランド名を聞いたことはなかったが、モバイルアクセサリーのメーカーと知り、自宅のモバイルバッテリーを確認したら、しっかりAnker製だった。

近年、家電や電子機器の市場は過酷である。巨額投資した技術はすぐにキャッチアップされ、商品は汎用化し、見る間に価格勝負に陥る。ところが、2011年に創業し、中国・深圳に本拠を構えるAnkerグループは、レッドオーシャンの汎用のモバイルバッテリー市場に参入するや急成長を遂げた。2018年のグループ売上高は約860億円。同様にパソコンやスマートフォンの周辺機器を扱う日本の大手エレコムを見ると、2019年3月期に同約993億円だから、それに迫る勢いだ。

本書『Anker 爆発的成長を続ける 新時代のメーカー』は、同社創業者で元グーグル上級エンジニアのスティーブン・ヤン氏をはじめ、関係者へのインタビューをもとに成功の秘密に迫っている。著者の松村太郎氏は、フリーランスのジャーナリスト。

■第三の選択肢を提供

Ankerの成功理由は、どこにあるのだろうか。一つは、純正品と粗悪なノーブランド品の間に、手ごろな価格で品質の良い商品という「第三の選択肢」をつくり出したことだという。

これだけなら、似た位置づけの商品を持つ企業は少なくない。では、何が違うのか。本書を読む限り、ヤン氏が、創業時から世界を見据えて周到に戦略を練ったことではないか。世界中の優秀な人材が集結する深圳に本社を構え、アップルなどの成功例に倣って工場を持たないファブレスを選択。D2C(ダイレクト・ツー・コンシューマー)に早期に注目し、当初、販路をECプラットフォームに絞って経営資源の分散を避けた。アマゾン・ドット・コムを介して世界で販売を開始したのは創業の翌2012年だ。仮に各国に独自の販売店網を築き、営業担当者を配置するとなれば、ベンチャー企業が担うには重すぎる負担なのは間違いなく、時間もかかっていただろう。

■「神対応」の顧客サポート

Ankerグループの躍進を支えたのが、カスタマーサポートの戦略化だ。アウトソーシングせず、すべて訓練を受けた正社員が担うという。顧客の声を最重要視する姿勢の表れだ。Ankerグループは、アマゾンのレビューを最も重要なKPI(重要業績評価指標)の一つとし、顧客満足度に徹底的にこだわっているのだ。

売上高100億円超のアンカー・ジャパンの場合、日に数百件という問い合わせを、十数人の部隊が一手に引き受けているそうだ。日本市場には、中国メーカーは品質が良くないという偏見がある。それを払拭するため、アマゾンのカスタマーレビューやマスメディア、個人のブログ上のネガティブな意見に対し、商品の改善を徹底している。早ければ1カ月から2カ月で改良品が市場に出るというから、驚きだ。レビューの評価を高めることで信頼を築き、ファンを増やしているのである。いまや、Ankerのカスタマーサポートは、ネット上で「神対応」とたたえられる。

本書にはほかにも、ブランド哲学や経営戦略など、Ankerの成功の秘密が明かされている。今後の方向性も含め、彼らの戦略や考え方からは、新規事業創出やビジネスの拡大を考えるヒントを得られるだろう。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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