アフターコロナの消費者はこう変わる

新型コロナウイルスの感染拡大で在宅勤務が広がり、「オフィス不要論」が勢いを増している。しかし、実はオフィスを解約するという動きはまだ極めて限定的だ。コロナ後も、オフィスは残る。しかし、オフィスの中身、あり方は180度変わる。では、どう変わるのか。

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高層ビルが林立する東京・丸の内。オフィスビルを本格的に引き払う動きはまだ見られない(写真/Shutterstock)
高層ビルが林立する東京・丸の内。オフィスビルを本格的に引き払う動きはまだ見られない(写真/Shutterstock)

 全社員を在宅勤務にして、オフィスは引き払うことにした──。withコロナの象徴として、慣れ親しんだオフィスに別れを告げる「さよならオフィス」が注目の的になっている。しかし、それがトレンドなのかと言われると、まだそうとも言い切れない。

 「新型コロナでオフィスを解約したという事例がメディアで紹介されると、あたかもそれが大きな流れのように見えてしまうが、実はいまだごく一部にすぎない。都心からオフィス需要が減少するという極端なことにはならないのではないかと思っている」。こう明言するのは、不動産サービス大手シービーアールイー(CBRE、東京・千代田)のリサーチヘッド大久保寛氏だ。

 実際にオフィスビル仲介の三鬼商事(東京・中央)が発表した都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の2020年5月のオフィス平均空室率は1.64%。20年6月は1.97%と上昇したが、それでもまだ2%を下回っている。2年前は2.5%を上回っていたことを考えると、際立って上昇したとは言えない。千代田区と中央区にいたっては、いまだ1.5%を下回っている。正確に言えば、オフィス戦略をどうしていくか、大半の企業がまだ模索している状態だ。

 半年前と大きく異なるのは、会社に行かずに働くというライフスタイルが社会的に認められた点にある。一方、職場という狭い空間から解き放たれて初めて見えたのは、在宅勤務には限界もあるという現実だった。5月26日。緊急事態宣言が解除された翌日から伊藤忠商事は原則出社に切り替えた。キーエンスも6月には通常勤務に戻した。在宅勤務では、従来通りの生産性を維持するのが難しいという判断からだ。

 もちろん、その逆パターンもある。富士通は7月6日、グループ会社を含めた国内のオフィススペースを23年3月末まで、つまり3年以内に半減させると発表した。カルビーは所属部門が認めれば単身赴任を解除し、家族と過ごせる新制度を7月に創設した。いずれも在宅勤務を原則化した点で、オフィスのあり方を大きく変えた。ただ、オフィスを完全になくすという決断には至らなかった。

 それは“リモートワーク先進国”と目される米国でも同じだ。IBMやヤフーはコロナ前から自宅など職場以外で働くリモートワークの廃止に踏み切り、グーグルもオフィスの再開に本腰を入れ始めた。一方、ツイッターは5月、全世界の社員に在宅勤務を無期限で認める方針を示し、フェイスブックも在宅勤務の拡大に意欲的だ。しかし、それでもオフィスを残すのは、オフィスには一定の役割があると考えるからだ。

 「突拍⼦もないアイデアというのは、集まることで⽣まれる。アイデアを出すのは(ビデオ会議システムの)Zoomでもできるじゃないかと⾔われればそうかもしれないが、Zoomにないのはセレンディピティー(偶発性)。たまたますれ違った時に交わしたコミュニケーションからアイデアは⽣まれる。IT系スタートアップの⽅ほど、そういうセレンディピティーを何よりも重視する」(大久保氏)。このセレンディピティーの重要性は、米アップルの共同創業者スティーブ・ジョブズ氏も説いていた。

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