ひらめきブックレビュー

生きるスキルと進学率を両立 米国「最高」の教育とは 『成功する「準備」が整う 世界最高の教室』

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複雑化する社会で「いい人生」を送るために、子どもに身につけさせるスキルとは何だろうか。自分の子どもを通わせるなら、どんな学校が良いだろう。そんな問いに答えるべく、自ら理想の学校を立ち上げた教育者が米国にいる。本書『成功する「準備」が整う 世界最高の教室』(稲垣みどり訳)の著者、ダイアン・タヴァナー氏だ。

タヴァナー氏は元高校教師。一人ひとりの生徒たちの力の伸ばし方、向き合い方を10年ほどの教員生活で模索した。そして教育とは「子どもが将来、意義のある仕事を求めて自分の好きなこと、大切だと思うことをし続けられるための準備」であるべきだという思いに至る。その目的に向かって、従来とはまったく違うかたちの学校「サミット」を立ち上げた。2003年のことだ。

現在までに、サミットは15校。卒業生はほぼ全員が4年制大学への入学許可、そして米国平均2倍の大学卒業率を達成しているという。著者は教育目標として「大学卒業」に大きな価値を置く。なぜなら、経済的安定のチャンスにつながり、充実した人生をサポートするからだ。本書は、サミット設立までの歩み、理念や仕掛けなどを、著者自ら語ったものである。

■「自己主導性」を身につける

サミット・スクールで重視するのは「自己主導性」だ。自己主導性とは、自ら設定した目的に対して、戦略的に行動する力のことだ。

自己主導性を育てるためにどうするか。サミットでは毎日1時間の「自主学習」の時間を導入しているという。生徒は個人的なゴールに合わせて、その日、あるいはその週に達成すべきことを行う。本人のゴールから引き出された課題であるため、「フランス革命の原因」や「複素数と有理指数」など内容は生徒によってバラバラだ。

ユニークなのは計画、時間配分、どんな素材やパートナーを選ぶかまで、すべて生徒に考えさせること。「SMARTゴール」と呼ばれるフレームワークを活用し、2分という短時間で課題や計画を立て、周囲とのシェアを行う。最後には生徒たちに達成状況と振り返りを行わせる。ちなみにSMARTとは具体的な(Specific)、測定可能な(Measurable)、実現可能な(Actionable)、現実的な(Realistic)、期限を示した(Timebound)の頭文字をとったものだ。

■教壇を使わない授業

あくまでも「学びのリーダーは生徒自身」とするのがサミット流。これがよくわかる仕掛けが「チュータリング(個人指導)・バー」だろう。教師は講義をせず、教室の机に「バー開店中」と表示して座って生徒を待つというものだ。

すると、生徒は積極的にバーを訪れ、列をなした。大人数への講義では、ある生徒にとっては既知の内容ばかり、またある生徒には難解、と「帯に短し襷(たすき)に長し」だったのだが、個人指導バーではそれぞれの「知りたい」という気持ちを開放できたのだ。思わぬ良い影響も起こった。待ち時間に生徒は自然とふたり組になり、教え合うようになったのだ。一律的な指導をやめたことで、子どもたちの好奇心に火が付き、教わるのを待つ存在から、学ぶ主体へと変身したのである。

自己主導性が人生を駆動するエンジンならば、その両輪は目的意識と好奇心。主体性や課題発見力の必要性が叫ばれている日本でも、サミットのような人間の可能性を信じ続ける教育は、子どもたちの背中を押すに違いない。

今回の評者 = 梅澤奈央
情報工場エディター。ウェブ制作会社にて、企業・行政・教育機関の広告を手がける。東京都出身。大阪大学卒。

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