ひらめきブックレビュー

居場所ない、無気力… 定年後に陥る問題の乗り越え方 『定年を病にしない』

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

会社員生活から定年後へと生活をシフトすることは思いのほか難しい。心身ともに大きな環境変化である定年後に向けて、どう準備したらいいのだろうか。

そうした疑問に、多角的に答えてくれるのが本書『定年を病にしない』。定年を契機に陥りがちな問題、例えば「居場所が見つけられない」「肩書がなく焦る」「暴力的になる」「無気力になる」などを取り上げ、乗り越えるための考え方や、うつなどに深刻化させないためのアドバイスを伝えている。特徴は、定年を控えた50代~60代前半の中高年男性の悩みや失敗体験が41も取り上げられていること。その事例を他山の石とし、「定年後」の自分の姿をイメージしてみようというわけだ。

著者は浜松医科大学の名誉教授で血液学、生理学、大脳生理学を専門とする医学博士、高田明和氏。

■50歳をすぎたら動き出せ

定年後に問題になりやすいのが「プライド」の扱い方だ。「再就職」あるいは「再雇用」に関して、本書ではこんな事例が紹介されている。

建設会社を定年退職したT(60歳)。会社では親分肌で出世したが、定年後の再就職先がなかなか決まらなかった。ハローワークで警備員や清掃員の仕事を勧められて激怒し、職探しを断念。ボランティア活動に参加してもかつてのパワハラ気質が出てきてうまく居場所をつくれなかった。

これは会社人生で培ったプライドが問題になってしまったパターンだ。著者はまずプライドを手放し、警備員のアルバイトをやってみることをTに勧めている。その上で、これまでたくさん稼がせてもらった業界に、「恩返し」をしていると考えればいいと説く。高いポジションにいた人材が定年後にアルバイトをしていることは珍しくなく、似た境遇の者同士仲良くなり、生活が充実する場合もある。Tの場合は、正社員にこだわって再就職先を探すよりも、元いた業界内でアルバイトをしたほうがよいという見立てだ。

別の例を引いてみよう。大手不動産会社課長のSは、定年が半年先に迫ったときにようやく再就職について考えた。だが、うまくいかない。再雇用制度は新入社員並みに年収が下がるため、プライドが許さず選択肢にはなかったという。

著者はまず、再就職を目指すならば「50歳を過ぎて」すぐ、セミナーに参加するなど動き始めたほうがよいと指摘する。社外にコネクションを作っておくのも有効だ。だが出遅れてしまったら、焦っても仕方がない。このままでは再就職の見込みは薄いため、不本意だとしても再雇用制度を使うことを勧めている。そのときに新入社員になったつもりで、謙虚に若手から教わる意識を持つとよいそうだ。仕事も楽しめ、惨めな感情は生まれにくい。

50代からの準備としては、これまで培ったキャリアやプライドは通用しないと心得ること、変化を柔軟に楽しむこと、となるのだろう。本書は他にも、むなしさを感じる「男性更年期」や妻の小言がストレスになる「妻源病」など様々な問題に対し、処方箋を示している。定年に限らず、環境変化を乗り切るヒントとして、本書が活用できそうだ。

今回の評者 = 安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。