ひらめきブックレビュー

他者のために挑戦せよ 有名女子校「やる気」の教え方 『21世紀の「女の子」の親たちへ』

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日本社会の男女格差は、企業の採用や評価の基準を見る限り改善傾向にありそうだ。ところが、閣僚や経済団体の上層部には、いまだ明らかに男性が多い。

嘆いている場合ではない。現代の日本に生まれた女の子たちは、この社会を生きていく。彼女たちに、のびのびと活躍する女性に育ってもらうには、どうしたらいいだろう。

本書『21世紀の「女の子」の親たちへ』は、性別に関係なく個人が個性を存分に発揮し、支え合って暮らせる社会をゴールとし、女の子を育てるにあたって親や教育者が気を付けるべきことを解説。有名女子校の先生方の言葉を引きながら、キャリア、性、学校・親の役割の切り口から考察を加えている。著者のおおたとしまさ氏は、『21世紀の「男の子」の親たちへ』の著作もある教育ジャーナリスト。

■「出世競争」は男性向け制度

日本社会で女性が活躍しにくい理由の一つに、制度設計が男性向けであることがあげられる。例えば、日本の旧来の男性社会では、「出世競争」で切磋琢磨(せっさたくま)させてきたと、著者はいう。しかし、これは男性向けのインセンティブ設計であり、女性には必ずしも向いていないようだ。徒競走を考えればわかりやすい。男子は、競争相手と走るほうが記録が伸びやすい一方、女子はプレッシャーに弱く、競争を嫌う傾向があるという。

品川女子学院の漆紫穂子先生によれば、女性を登用する際には、「キミのために」より「次世代のためにパイオニアになってほしい」などと伝えるほうが、心を動かしやすい。つまり、こうした女性の特徴を捉えたインセンティブ設計が増えれば、女性の新たな「成功モデル」が出てくるはずだ。女性に活躍の場を与えられる企業こそが、これから伸びると著者は見る。

新たな「成功モデル」の一例は、もうけることよりも、誰かの役に立つ喜びを重視する働き方だ。本書には、レシピ動画サービスの「デリッシュキッチン」を立ち上げた女性が紹介されている。彼女は「いろんなひとがサービスを見て楽しいって思ってくれるのがうれしい」と語ったそうだ。21世紀は、競争より「共栄」の時代と言われる。他者のため、社会のためのチャレンジへと背中を押すことが、女の子のポテンシャルを引き出すことにつながるだろう。

■男親の「問題解決モード」はNG

女の子を育てるにあたって、親として気を付けるべきこともある。

私事になるが、今年8つになる娘がいる。おてんばなところなど、私の子ども時代によく似ている。が、似ているといって分かる気になるのが、女親のリスクらしい。大学や結婚、就職などにあたり、女親は、良かれと思う昭和・平成の女性像を娘に重ねてはいけない。母と娘は別個なのだ。古い価値観を押し付ければ、娘は反感を抱く。それでは、母娘関係がこじれかねないと、鴎友学園の大内まどか先生は語っている。いま一度、母親としての姿勢を見直したい。

男親はどうか。娘の周りに問題が起きると、心配のあまり「こうしたらいいんじゃないか?」と「問題解決モード」に突入。本人の気持ちが見えなくなる傾向がある。大内先生によれば、リードするより娘と一緒に考えてほしいという。

女の子の親はもちろん、女の子や女性を育てる立場にある方に、ぜひ読んでいただきたい一冊だ。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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