リコーの小型プロジェクター「RICOH Image Pointer」がクラウドファンディングで約3000万円の支援を獲得した。「社内でも賛否両論が大きかった商品」をあえてクラファンに掛けた。先にお金を払ってくれる人がこれだけいる──この数字が、投資の判断基準になり得るという。

リコーがクラウドファンディングで資金調達して開発中の小型ハンディープロジェクター「RICOH Image Pointer」。ボタン1つでスマートホンやタブレットの動画や画像を投影し、複数の人と楽しむことができる
リコーがクラウドファンディングで資金調達して開発中の小型ハンディープロジェクター「RICOH Image Pointer」。ボタン1つでスマートホンやタブレットの動画や画像を投影し、複数の人と楽しむことができる

 「RICOH Image Pointer」は、ボタン1つで動画や画像を投影し、複数の人と楽しむことができる手のひらサイズのプロジェクター。バッテリー内蔵でワイヤレス接続に対応しているため、写真や映像を瞬時に映し出すことができる。電源ケーブルをつないだり、投影までに時間がかかったり、パソコンと接続したりする煩雑さもない。

 クラウドファンディングは、きびだんごが運営する「Kibidango」と、カルチュア・コンビニエンス・クラブグループのワンモアが運営する「GREEN FUNDING」の共催で行った。このプロジェクトのスタート時の目標は、5月15日までの目標金額を1000万円に設定し、達成できれば量産開発・商品化を判断するとしていた。ところが、スタートして4日後の3月23日には目標金額を早々に達成。最終的に約3000万円を獲得した。21年5月を目標に開発。その後、支援者に商品を提供する。

 リコーは新規事業の創出に向けた取り組みとして、19年度から「RICOH ACCELERATOR」(リコーアクセラレーター)というプログラムを実施している(現在は「TRIBUS」に名称変更)。スタートアップ企業や社内外の起業家の成長を支援して事業共創を目指すもので、19年2月に社内から、同4月に社外からの募集を開始した。同10月には社内外を合わせたコンテストを開催し、プログラムに参加する5チーム・8社を選出。各チームは事業化に向けて具体的な取り組みを進めている。RICOH Image Pointerも、このプログラムで活動している社内チームが基礎開発したものだ。

マーケやアンケートでは分からない

 「RICOH Image Pointerは、社内でも賛否両論が大きかった商品だ」。リコーオフィスプロダクト事業本部SC事業センターNP事業推進室リーダーの和田雄二氏はこう打ち明ける。否定的な意見の主な理由は、「技術的に目新しい点が何もない」というものだ。確かに見た目も使い方も至ってシンプル。大きさは手のひらサイズで手軽に持ち歩きができ、表面には電源ボタンと投影ボタンの2つがあるだけ。無線または有線でスマートフォンやタブレット端末に接続し、投影ボタンを押すと、端末で表示している画面を投影できる。

 イノベーションは長らく「技術革新」と訳されてきたが、技術革新を伴わなくてもイノベーションは起こせる。この商品は「一緒に見る、遊ぶ、盛り上がる、感じる場」を提供することがコンセプト。コミュニケーションの世界を変えるというイノベーションを起こそうとしている。

家庭でも、壁や天井など好きな場所にどんなものでも瞬時に出現させることができ、子供と一緒に楽しめる
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大好きなペットの映像を映して楽しむシーン
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 「賛否両論が強いものほどクラウドファンディングが判断基準の手法として力を発揮する」と和田氏は言う。先にお金を払ってくれる人がこれだけいるという目に見える数字は、投資の判断基準として、これ以上分かりやすいものはないというわけだ。「開発している我々も、クラウドファンディングを始めたことで『買ってくれる人がこんなにいるんだ』という喜びを感じている。これはマーケティングやアンケートでは知ることはできない」(和田氏)。

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