2020年はいつもと違う 教育費の「ため時」
教育費・住宅費・老後費用は人生の三大支出といわれます。ライフプランのなかで、備えておくべき大きな支出ということです。住宅費・老後資金と異なり、教育費は自分自身のためではなく、子どものための費用。かわいい我が子にはできるだけのことをしてあげたいけれど、どのくらいかかるのか、どうやって用意したらいいのか。不安に思う人は少なくないでしょう。家計再生コンサルタントで、自身も6人の子どもをもつ横山光昭さんに、教育費について知っておきたい様々なことを解説してもらいます。
「教育費ってどうやってためるとよいのですか」
「今のままの家計で大学まで進学させられますか」
教育費を不安に思う言葉は、家計相談の場でかなり多く聞かれます。教育費への心配から「もう1人産んでもやっていけるでしょうか」などと、出産の可否まで聞かれることもあります。私に言われても困ると思うこともありますが、経験からいうと多くの場合は意外と大丈夫であると感じます。お子さんに教育を受けさせながら育てられるかどうかは、ご夫婦次第。今は幼児教育や高校、大学も無償化が進んでいますから、やる気になれば何人でも育てられるのではないかと思うのです。
それでもやはり、教育費はライフプランに大きく影響する3大支出の一つ。経済的な理由で子どもをもつことを躊躇(ちゅうちょ)する気持ちもわかります。子ども1人にかかる教育費は「最低で1000万~1200万円」とも言われますし、そのほかに養育する費用もかかります。かなりのお金がかかることだと気構えてしまうのです。
ですが、それでもひるむ必要はありません。教育費は一度に必要な金額ではないですし、子どもと共に暮らす中でいかようにもやりくりできる可能性があるからです。
いかようにもできるとはいっても、「ため時」にきちんとためる、毎月計画的に費用を捻出してためるなど、希望をかなえていくための努力はしなくてはなりません。その「ため時」といえる時期は、一般的に公立校に通うことが多い義務教育の時期。
多くは母親がパートを始めたり、仕事量を増やしたりして収入アップをしようとする時期です。ここで一気に将来に向けて、貯金を加速したいものです。
長期の休校で教育費の中身が変化
ところが、今年(2020年)は少し勝手が違います。新型コロナウイルス感染拡大が心配され、3月から5月までの3カ月間、公立の小中学校、高校は休校となりました。4月には緊急事態宣言が出て休業要請の要件を満たす塾もお休みに。習い事もほとんどが営業自粛となりました。勉強も学校行事も習い事も、全てストップせざるを得なくなったのです。
小学生は今年からプログラミング授業が始まることになっていましたし、小学6年生、中学3年生、高校3年生は受験を控えています。「勉強を教えてもらえない環境」は、親にとって子どもの将来を不安に感じさせるものとなりました。
休校の間は給食費が徴収されず、学校に支払う負担は減っています。ですが、そもそも大きな金額ではありません。一方、子どもの学力の維持・向上のために、学習ドリルを購入したり、休みとなった対面塾の代わりにオンライン授業に取り組んでいる塾に入ったりと、別の形の教育費が発生し、例年ならば日中は家にいない子どもたちの食費、日用品代、水道光熱費などの負担も増えています。「お金をためるどころか、支出がかさんで困る」という声も耳にします。
さらに、「家にいる子どもの面倒をみるためにパートを休まざるをえない」とか、「小学校に入学して子どもが手を離れるはずが、休校で子どもが家にいるので仕事が始められない」という人も。収入が増えない、むしろ減っているのに支出が増えているご家庭もあり、教育費の「ため時」は先延ばしせざるをえないというのが実情でしょう。
少なくとも児童手当は貯蓄へ
緊急事態宣言が解除されても、時短営業や時短勤務などで収入はすぐに戻らない可能性もあります。新たにパートなどの職を探すのも難しく、ため時を1年以上逃してしまうようなケースも多いのではないかと危惧しています。
新型コロナの影響ですぐには収入を増やせないという場合は、児童手当は少なくとも生活費に回さず、貯金にまわすようにしてください。そのためには、生活費と別口座に児童手当が振り込まれるようにしておくといいでしょう。また、生活費の圧縮をして、余剰金を増やす努力も必要です。支出を把握し、無駄を見つけるようにしてください。
現在遣っている教育費の見直しも重要です。教育にかけるお金は聖域になりやすく、一度始めると減らしにくいものです。それでも、時折、通う必要があるか、子どものためになっているのかなど、学校外での学習の場との付き合い方を見直すようにした方がよいでしょう。
このたびの休校期間中に始めたものも、子どもの生活リズムを維持するためにとか、外出自粛中にやることがないから、など理由は様々でしょう、今までは緊急事態だったのでやむをえない部分もありますが、ある程度通常通りに戻ったら、欲張りすぎずにどういう学習が必要かを選択し、教育費を増やし続けたままにならないように気をつけたいところです。
就学援助制度の利用検討を
一方で、親の収入が減ったり収入がなくなったりしたことによる「子どもの貧困」も問題となっています。義務教育中は公立学校では授業料がかからないものの、教材費がかかったり、修学旅行を含めた宿泊学習代などの負担が苦しいため、学校再開を負担に思っている方も確実に一部いらっしゃるのです。
そのような場合は、毎年4月に締め切っている「就学援助制度」の利用を検討してみてください。小中学生のお子さんがいる方はわかるかと思います。新学期が始まると渡される、青い二つ折りのあの紙です。新型コロナの影響で今年は6~7月まで締め切りを延長している自治体もあり、年度途中でも家計の急変時は相談できます。利用できる基準は各自治体で異なり、援助の内容は主には給食費や学用品、修学旅行費を負担してもらえるなどですが、これも自治体により異なります。お住まいの市区町村の役所、または通っている学校にご確認ください。
2020年は勉強もしにくく、教育費もためにくい。そんな年度のスタートになりました。
私にも、小学生の子が2人いますが、元気に退屈して休校期間を過ごしました。6月1日から時間を短縮して学校が始まりましたので、ようやく生き生きとした顔をするようになりました。遅れた勉強について、今後の教育にかかるお金について、みなさんと同じように気になっていますが、一緒に頑張っていきましょう。
家計再生コンサルタント、株式会社マイエフピー代表。お金の使い方そのものを改善する独自の家計再生プログラムで、家計の確実な再生をめざし、これまでの相談件数は2万3000件を突破。著書に『はじめての人のための3000円投資生活』『年収200万円からの貯金生活宣言』など。オンラインサロン「横山光昭のFPコンサル研究所」を主宰。
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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