ひらめきブックレビュー

ロジカル思考の弱点補え 決断を促す「直観力」を養う 『直観を磨く』

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経営の神様・松下幸之助の言葉に「カンと科学は車の両輪」というものがある。ここでいうカンとは、理屈抜きにひらめく直観だろう。カンを打ち消す合理性がないならば、そのカンを通せばいいと、彼は語っていたという。

しかし、カンが鈍い人は、どうすればいいのだろうか。

心配する必要はなさそうだ。本書『直観を磨く』によれば、直観は磨けるというのである。ただし、直観力とは、さまざまな技法を用いて思考力全体を高めることによって初めて磨かれるとし、具体的な技法を紹介している。著者は、元内閣官房参与、多摩大学大学院名誉教授、シンクタンク・ソフィアバンク代表などを務める田坂広志氏だ。

■論理思考はAIが代替する

そもそも、なぜ今、直観が求められるのだろうか。「論理思考」(ロジカル・シンキング)を説く書は多いが、著者によれば、原因から結果を導くような論理思考は、いずれAI(人工知能)に置き換わる。これからの時代に不可欠なのは、論理思考を超えた直観の力を用いる思考法という。

もっとも、幸之助の「車の両輪」の言葉と同じく、論理思考を軽視するわけではない。思考のプロフェッショナルは、論理と直観を対立的に捉えず、二つを融合させて物事を「深く考え」ていくという。

深く考える技法として紹介される一つが、「対立止揚」の思考法だ。論理思考は、「真と偽」、「善と悪」というように、基本的に二項対立的な思考という。したがって、複雑な現実を単純化してしまい、うまく対処できなくなる。そこで、対立止揚の思考法によって、二つの考え方をより高い次元で統合する。一例として、日本企業の多くが「利益追求」と「社会貢献」を二項対立的に捉えず、本業を通じて社会に貢献しようと考えることがあげられている。

■賢明なもう一人の自分との対話

では、直観を磨くために、まず何をすればいいのだろうか。カギとなるのは、「自己対話」だという。著者によれば、私たちの中には、「賢明なもう一人の自分」がいる。鋭い直観力と膨大な記憶力を持ち、私たち自身に語りかけ、深い思考や思索へ導いてくれる存在だ。

本書には、この「賢明なもう一人の自分」との自己対話を深めるために、日記を書くとか、意図的に自分にプレッシャーをかけるなど、具体的な技法が豊富に紹介されている。また、体験からつかんだ知恵を用いる思考や、思索のためだけに散策するといった身体的技法など、すぐに実践できそうな内容も多い。それらを継続することが、長期的に直観を磨き、才能や能力を発揮する基礎をつくるのではないか。つまり、AI時代に淘汰されない思考力を鍛えるわけだ。

本書を機に、直観を磨く努力を始めてみてはいかがだろう。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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