タクシーの会話消えて知る 車中で学んだしゃべりと街

コロナ禍はタクシー需要も冷え込ませた(5月3日午後、京都市下京区の乗車場)
コロナ禍はタクシー需要も冷え込ませた(5月3日午後、京都市下京区の乗車場)

タクシーに乗る機会が減った。もちろん、新型コロナウイルスのせいだ。外出自粛の指示が続き、仕事で乗る機会が激減した。だが、タクシーは単なる交通手段ではない。運転手さんと「1対1」になるという、極めて「密」な空間だからこそ、おしゃべりを通して、貴重な情報を得たり、会話そのものを楽しめる場所でもある。

個人差は大きいが、タクシーの運転手さんは事情通の人が多い。私のように、いつもしゃべる材料を探している者にとっては、またとない情報源だ。ラジオ局に勤め始めたころから、「タクシーの運転手さんから話を聞いてこい」といわれていた。インターネットがなかった時代には実にありがたい「生の情報ソース」だった。

入社してまもなく、地方向けの深夜放送をワンマンディスクジョッキーの形で任された。何をどう話したらよいのか分からず、尊敬する先輩ディレクターに相談したら、「タクシーの運転手さんはネタの宝庫だ。カメちゃん(亀渕昭信さん。当時のラジオ番組『オールナイトニッポン』の人気者で、後にニッポン放送社長。今も年に1度、民放祭でご一緒する)はタクシーに乗ったら、すかさず『景気、どう?』から入って、おもしろい話を仕込んでいる。君も貪欲にやれ」と勧められた。

私は助言どおり、取材する気満々でタクシーに乗りこんだ。亀渕式をそっくりまねて、「運転手さん、景気はどうですか?」と聞いて、いきなり怒鳴られた。

「いいわきゃないだろうが。あんたがきょう初めての客だ、どうしてくれる!」

時は1973年、オイルショックのまっただ中。景気が冷え切った年の入社だった。何でも形だけをまねてもうまくいかないことが多いが、事情を考慮に入れない、安直な「完コピ(完全コピー)」は大失敗だった。

次第に慣れてくるにつれ、運転手さんとの短いおしゃべりは苦にならなくなった。天気に代表される無難な話題から切り出すことも覚えた。だが、タクシー内での過ごし方には、乗客側の個人差が大きく、運転手さんとの会話についても「好き」派と「嫌い」派にはっきり分かれがちだ。

運転手さんに話しかけられるのが苦手だという人は少なくない。だが、好意的に話しかけてくれているのに、「口を閉じていてください」とは求めづらい。ひたすら聞き役に回っていれば、それと察してもらえるケースは多いが、好みではない話題や口調の場合は、目的地に着くまでの時間が長く感じられる。

車内でのおしゃべりが苦にならない人の場合でも、話題探しはなかなか大変だ。昔はプロ野球や大相撲といった、国民的な関心事があったので、このあたりをとっかかりに使えた。しかし、今はナイターの時間帯に乗り込んで、「どう、巨人、勝ってる?」と尋ねても、空振りしがちだ。

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