ひらめきブックレビュー

スティーブ・ジョブズの「壊す力」 再現を試みる思考 『Think Disruption』

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新型コロナウイルスの問題がグローバル社会に大きな影響を与えている。激変の時代の到来だ。このような時代に、変化に対応していくためにビジネスパーソンが持つべきマインドセットとは何か。その問いの答えを、過去のアップルから学んでみてはどうだろう。

本書『Think Disruption』は、アップルが経営危機に瀕した際にCEOだったスティーブ・ジョブズが成し遂げた様々な変革について、1997年に行ったブランドキャンペーン「Think different」をベースに解説したものだ。このキャンペーンこそ、その後のアップルの破壊的イノベーション(ディスラプション)を決定づけたもの。Think differentというメッセージに込められたジョブズの思いと行動とを読み解き、「ディスラプター(破壊的創造者)の思考法」として、多くの人が再現できることを目指して簡明にまとめている。

著者の河南順一氏は、Think differentキャンペーンの日本責任者として活躍した人物。その後IT、外食業界などでブランド再生や企業イメージの刷新業務を次々と行い、現在同志社大学大学院教授を務めている。

■自分が世界を変えられる

1997年、アップルはジョブズ肝いりの「Think different」CMを放送した。アインシュタイン、キング牧師、ガンジーといった20世紀に活躍した天才17名が登場し「彼らはクレージーと言われるが、私たちは天才だと思う。自分が世界を変えられると本気で信じる人達こそが本当に世界を変えているのだから」とナレーションが入る。アップルが何を目指し、顧客にどのような価値を提供したいかというジョブズの思いが結実したもので、大きな反響を呼びアップルのブランド力を高めた。

倒産寸前だったアップルはこのキャンペーンを機に復活を遂げる。98年にiMac、2001年にiPod、2007年にiPhoneの発表。これらの革新的な製品はすべてThink differentというマインドセットが社内に浸透したことから生まれたと著者は見ている。周囲から反対されようとも、前例がなくても、突拍子がなくても、破壊的創造を行うイノベーターであり「ディスラプター」であるという自覚が、社員に芽生えたのだ。

■熱狂的こだわりが革新を生む

ディスラプターの思考の核には「オブセッション」(究極の熱狂的なこだわり)があるという。ジョブズは「宇宙にへこみをのこす」と表現していたようだが、コンピューターと人間の感性が融合するような製品をつくるというオブセッションがあった。破壊的イノベーション理論で知られるクレイトン・クリステンセン教授は、そんなアップルを「究極のフリーク(オタク)」と評していたそうだ。

著者は、社員のプレゼンを途中でやめさせたり、取材をドタキャンするなど常識外れなジョブズの言動にへきえきしたこともあったようだが、そこにはいつも熱狂的なこだわりや情熱が潜んでいたことを認めている。オブセッションとThink differentは一対なのだ。

ディスラプションというと非常に大きなことのようで、自分とは無関係と思いがちだ。だが本書からはむしろ個人的な、熱狂的な思いが伝播していき、顧客や関係者を巻き込んで破壊的イノベーションになっていくことが伝わってくる。熱狂の種火をもつ人間が必要なのだ。それはジョブズのような天才でなくても、あり得ることなのではないだろうか。

今回の評者 = 倉澤順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。早大卒。

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