イライラ生む日常の「バグ」 取り除くデザインの魔法『バグトリデザイン』

「バグ」とはコンピュータソフトのプログラムにある「虫食い」がエラーを引き起こすことだ。このバグ(トラブル)が、私たちの生活にもあふれている、という立場から書かれているのが本書『バグトリデザイン』。例えば、エレベーターの開閉ボタンを押し間違えて人を挟みそうになったり、断熱カップで熱さを忘れ舌をやけどしそうになったり……。こうした、しようとしたことがうまく行えなかったり、予期せぬ悪い結果がもたらされたりすることを「行為のバグ」と捉え、それらを取り除いてスムーズな行為をみちびく方法論を「行為のデザイン」として紹介している。

著者はハーズ実験デザイン研究所(大阪府豊中市)代表取締役の村田智明氏。160点以上のデザインアワード受賞実績を持ち、企業の商品開発や地域振興にも数多く携わっている。

「開」ボタンを間違える理由

本書はバグを「非効率のバグ」(駐車場の料金精算所で小銭しか使えないなど、行為の中断ややり直しがある)「迷いのバグ」(照明とスイッチの対応がわかりづらいなど、ユーザーに迷いを生じさせる)、「誤認のバグ」(断熱カップのケースのように勘違いや思い込みを生む)というふうに6種類に分けて説明している。「エレベーターの開閉ボタンの押し間違い」も誤認のバグだ。エレベーターに駆け込みで乗ろうとする人のため、庫内にいる人がとっさにドアを開けようとしても、ボタンの表示が似ており瞬時に開閉を判別できないのが問題となっている。

そこで著者は、顔の表情をデフォルメしたボタンで実験を行った。口を大きく開けたものが「開」、口を閉じたものが「閉」だ。こうして直感的に判断できるようにしたところ、あらゆる世代で誤認性が低くなったという。このように、モノをユーザーがどんな目的でどのように使っているか、「行為の流れ」を見ていくのがバグトリの考え方だ。言い方を変えれば、バグはモノ単体にあるのではなく、「モノと人の関係性」の中にあるということだ。

「なりきり体験」を活用する

エレベーターボタンの例もそうだが、バグとはささいなものなので、ついやり過ごしてしまうものも多い。だが、バグトリの肝は改善点となるバグに気づくことだ。このバグ抽出のためにはどうすればいいのか。

著者は、自身の手がけるワークショップの事例を紹介しながら、「想像体験」が重要だと説く。自分とは違う立場であるユーザーになりきって、疑似体験をするのである。本書では女性客を増やしたい中華料理店で、男性担当者たちが女性になりきって入店から食事までを想像体験するケースが紹介されている。するとギョーザが大きすぎて肉汁がこぼれる、メニューがべとついている、服に臭いがつくなどのバグが多数ピックアップできたそうだ。「なりきり体験」は女性だけではなく、高齢者や外国人、障がい者など、さまざまな属性で可能だ。この多彩な想像体験が、課題解決の鍵になるようだ。

本書には他にも、表示窓の色の違いで「鍵をかけたかどうか」が可視化される鍵など、バグやその解決例が多数掲載されている。本書を一読したあとは、バグの抽出とはイノベーションにつながる種の発見であることが分かるだろう。もし、スムーズにいかずにイライラしてしまう不都合に遭遇したら、ぜひ本書を思い出してほしい。

今回の評者=安達貴仁
情報工場エディター。主にDTP組版、ときどきカメラマンの傍ら、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームでも活動。東京都出身。

バグトリデザイン 事例で学ぶ「行為のデザイン」思考

著者 : 村田 智明
出版 : 朝日新聞出版
価格 : 1,980円 (税込み)

ビジネス書などの書評を紹介
注目記事
ビジネス書などの書評を紹介