ひらめきブックレビュー

人生の転機に直面したら 考え方を磨く100の問い 『サラリーマン人生100本ノック』

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働くことについて考えるとき、とある知人男性のエピソードをいつも思い出す。食品メーカーに勤めていたが、いつしか日々の仕事に味気なさを感じるように。30歳になったのを機に「自分は本当は何をしたいのか」を真剣に考え、出た答えが「下着」だったという。そこから一念発起してデザインを猛勉強、みごと下着メーカーに転職した。

ビジネスパーソンがこのような転機を迎えるとき、何を考え、どう判断するのがキャリアアップにつながるのか。そんな疑問に「問いの連打」で応じてくれるのが本書『サラリーマン人生100本ノック』だ。「転職」をはじめ「入社や配属」「転勤」「人事異動」「家庭や子どもをもったとき」「左遷されたとき」「独立」といったキャリアの転機が取り上げられており、ビジネスパーソンが考慮すべきポイントをQ&A形式で解説している。

著者はリクルートで営業の最前線で活躍し、東京工業大学大学院で「営業戦略・組織」を教える北澤孝太郎氏。

■虚を突くような問いの連打

本書の大きな特徴は「ノック」がある点だ。各章の内容の理解を深めるための、著者から読者に向けられた短い問いと答えが、野球の特訓にようにいくつも提示される。「転勤における決断」の章には大阪から東京への異動の話をもらった営業マンが登場する。実績のある土地を離れ新天地で挑戦すべきかどうか悩むこの営業マンに対し、「もし転勤を命じられたら、どんなことが身に降りかかってくるか想像できますか」「伴侶を選ぶということは、あなたの仕事に関係ないと思っていませんか」といった虚を突くようなボールがびゅんびゅん飛んでくる。著者による考え方のガイドは示されているが、どのようにボールをキャッチすべきかはぜひ自ら考えてほしい。

転勤の決断では「仕事はどうすればできるようになるのか」という問いもとても重要になる。この問いに対し、著者はまず、こうありたいという「思い」を持つべきだと説く。思いとは「こういう人間になりたい」「この会社はこうあって社会に貢献すべきだ」という強い動機であり、いわばその人の信念、価値観のようなものだ。目先の損得勘定の前に、根源的な仕事観を突き詰めて考えよと勧めている。

■実力を上げる3つの視点

そのうえで、具体的に実力を上げていくためのヒントとして、3つの観点を挙げる。まず、リベラルアーツ。これは教養を身に着けるという意味ではなく、広く世界の物事に興味を持ち、自分なりの解釈で理解していくということだ。2つ目の観点は、デジタルトランスフォーメーション。自分がデジタル技術で効率化を目指す社会で生きていることを認識し、自分の仕事にできるだけこれを活用していく意識が必要だ。そして3つ目は「レトリック」(修辞学)。これは他者を説得したり、共感させるためのことばのスキルであり、価値観が多様化した現代でビジネスを進めるうえで重要なものなのだという。この3つの観点で仕事の仕方を更新していくことが、キャリアアップの第一歩なのだ。

著者は今や人と同じことはリスクであり、だからこそ、普通ではない「強い思い」「動機」が転機において求められてくるとメッセージを送っている。冒頭の下着メーカーに転職した知人は、今では企画部門で大活躍しているそうだ。本書の100本ノックを受け切った暁には、どんな転機も前向きに乗り越えていけるだろう。

今回の評者=山田周平
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。埼玉県出身。早大卒。

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