ひらめきブックレビュー

日本発の世界標準 QRコードの起源は「かんばん方式」 『QRコードの奇跡』

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扉のガラス部分に、大きめのQRコードが貼り付けてある地下鉄車両を見たことがある人はいるだろうか? 現在のところ、都営地下鉄浅草線や神戸市営地下鉄西神・山手線で見ることができるのだが、これは、駅のホームドアと車両の扉の開閉を連動させるためのものだ。駅に備え付けられたセンサーで、車両扉のQRコード(tQRという改良型のQRコード)を読み取り、開閉のタイミングを制御する。

ホームドアの開閉は乗客の安全を守るために、車両扉の開閉に合わせて正確に制御されなくてはならない。そのためには本来、車両の大がかりな改造が必要なのだそうだ。しかし、QRコードならばシールを貼るだけなので、大幅にコストと手間を省ける。この画期的なシステムは、トヨタグループ、デンソーの子会社デンソーウエーブ(愛知県阿久比町)と、東京都交通局が共同開発したものだ。

本書『QRコードの奇跡』は、スマホでのサイトへのアクセスやキャッシュレス決済のみならず、このような思いがけない使い方の可能性も秘めるQRコードの開発経緯をたどるノンフィクションだ。著者はイノベーション、経営戦略、マーケティングを研究領域とする神戸大学大学院経営学研究科教授の小川進氏だ。

■「細かい配慮」の集積

世界中のキャッシュレス決済などに採用されているため、意外に思う人がいるかもしれないが、QRコードは日本発のイノベーションだ。前出のデンソーが1994年に開発した。もとは、これも世界に誇る日本発の生産方式であるトヨタの「かんばん方式(ジャストインタイム)」を効率化するために作られた。

QRコードのような縦横2方向にデータを読み取れるコードは「2次元コード」と呼ばれる。2次元コード自体は日本で発明されたのではなく、QRコード以前に米国で3種がすでに実用化されていた。だが、それらのうち「大容量の情報格納」「サイズ設定の柔軟性」「高速読み取り」のいずれの長所も兼ね備えるものはなかった。

QRコードは、これら三つをすべて満たす優れた2次元コードとして登場し、世界標準となった。そのために、新聞、雑誌、書籍、書類など国内外の数千点の文字情報をコツコツと解析し、どこにも使われていない切り出しシンボル(周囲の文字や模様などとコードを区別するための図形)の形(黒と白の比率など)を決めるといった、たいへんな努力があった。

本書には他にも、電車の窓から見えた建物から特徴的な「かたち」を思いつくなど、興味深いエピソードが満載されている。既存の技術の改良、コード読み取りの細かい配慮など、日本人らしさを象徴する技術ともいえるQRコード。その開発エピソードから、ものづくりのヒントをもらってみてはどうか。

今回の評者 = 吉川清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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