やる気はなぜ続かない 心理学が解き明かす意欲の源『なぜ「やる気」は長続きしないのか』

自分で決めた資格勉強が続かないなど、誰しも一度は、モチベーションが途切れてしまった経験をお持ちだろう。そんなとき「意志が弱い」などと自分を責めてしまったこともあるのではないか。

だが、それはお門違いかもしれない。本書『なぜ「やる気」は長続きしないのか』(住友 進訳)によると、自制心やモチベーション、やる気に関わるのは意志よりむしろ「感情」の力なのだという。感情といっても個人的な喜怒哀楽ではなく、「社会的感情」、つまり社会的な生活を送るうえで人間に備わった感情のことだ。

具体的には「感謝」「思いやり」「誇り」の3つを指す。「感謝」とは他者が払ってくれた犠牲に対して抱く感情で、「思いやり」は、他者を気づかう意欲を引き起こす感情。「誇り」は、周囲に役立つスキル保持を名誉に思う感情である。

本書は数々の心理実験や研究から、こうした社会的感情を意識すれば自制心や継続力が高められ、より大きな目標に向かっていけることを明かしている。著者は米国ノースイースタン大学の心理学教授デイヴィッド・デステノ氏だ。

「感謝」が忍耐力高める

社会的感情のうちの1つ、感謝の気持ちが、自制心や忍耐力を強化することを証明した実験がある。少々複雑だが手順はこうだ。参加者A、仕掛け人Bにある単純なPC作業を行ってもらう。作業の終了間際、AのPCが故障する。もともと故障するよう仕掛けられており、Bが時間をかけて直す(このとき、AがBに対して感謝の念を抱いたことが後の調査から明らかになっている)。

数時間後、Bは偶然をよそおいAに再会。Bの開催する心理テストに「可能な限り時間を使って回答してほしい」とAに頼む。すると、Aは普段の感情の人(PCが壊れなかった人)と比べて30%以上も長い時間、テストに時間を費やしたという。驚くべきは、心理テストの依頼者がまったくの他人Cであっても、Aは通常より長い時間、退屈なテストに耐えたというのだ。

感謝の心を持っているとき、人は他者のために自分の時間や労力を犠牲にしてもよいと考えるようになる。そしてこの他者には、「未来の自分」も含まれるというのが著者の論だ。つまり、感謝の気持ちを抱いているとき、目の前の誘惑を犠牲にしてでも「将来の自分」にとってポジティブなことを選び取ることができる。結果的に、数年先にはより大きな報酬を得ることになる、というのだ。

要するにやる気とは、内発的なものではなく外発的なものなのだろう。多くのことに感謝の気持ちを持つ人ほど物事へのモチベーションが高くなる。さて最近、あなたは誰かや何かに感謝の気持ちを抱いただろうか。

今回の評者 = 倉澤順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。早大卒。

なぜ「やる気」は長続きしないのか―心理学が教える感情と成功の意外な関係

著者 : デイヴィッド・デステノ
出版 : 白揚社
価格 : 2,640円 (税込み)

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