新型コロナウイルスの影響でロックダウン(都市封鎖)が起きるとどうなるのか。顧客や商品、従業員、情報システムなど考慮すべき点はさまざまあるし、これを契機にリアル店舗の新たなマーケティングを模索することも可能だ。半日という短期間の猶予で自宅待機の規制が導入された、米サンフランシスコや米シリコンバレーなどを含む西海岸で、数店舗のチェーン店を運営する企業の幹部に対応と今後の見通しを聞いた。

(写真/Shutterstock.com)
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行政から自宅待機命令のアナウンスがあったとき、まず何を考えたのか。

3月16日月曜日の昼ごろに自宅待機命令が発表されて、有効となるのが17日午前0時と半日しかなかった。サンフランシスコやシリコンバレーでは17日は店を開けることができない。そのなかで何ができるのか。可能な限りビジネスを継続し、顧客に対応できる体制の確保に向け奔走した。誰が判断するのか、指示命令系統も再度確認した。

何が最優先事項だったのか。

やはり顧客対応だろう。ホームページでのアナウンス方法を検討するのはもちろん、店舗にかかってくる電話への対応も必要だった。店舗の営業時間だけでなく、ネットで購入した商品の問い合わせも結構入ってくるからだ。

 幸い、コンタクトセンターのクラウドサービスを導入していたので助かった。当社はアマゾンのものを使っており、容易にメッセージや顧客への対応フローを変更できる。例えば、Webの管理画面でメッセージのテキストを入れるだけで、電話対応の音声メッセージが変わる。プッシュボタンの「1」や「2」を押したら次にどのようなメッセージを出すのか、どの電話を鳴らすのかなどのフローを簡単に定義できる。

 このサービスを導入しておいて本当によかった。もともとは店舗の担当者が外部からの電話対応に時間を取られないようにするために採用した。すべての店舗の対応を、インターネットから設定できる。

 各店舗には顧客に渡すべき商品が残されていた。店舗は運営できないし顧客が取りに来られない。そこでそれらの商品をネット通販部門に集めた。そうすることで、顧客からの問い合わせがあれば送付できる。

「コロナ後」はリアル店舗のあり方変わる

ロックダウンで人影のない米サンフランシスコの店舗街
ロックダウンで人影のない米サンフランシスコの店舗街

そのほかビジネスの継続に必要な備えは。

やはり業務システムだろう。一般的な企業もやっていることだろうが、データセンターに重要な業務システムを集約しておいてよかった。そこに自宅のパソコンからVPNで入れば業務を続けることができる。店舗や事務所からしかシステムを利用できない状況だったら、在宅勤務の障壁となっただろう。コンタクトセンターだけでなく、顧客からの電話やメールによる対応案件を統合的に管理できるクラウドサービスにしていたのもよかった点だ。

 顧客対応の従業員には専用のデスクトップパソコンをライドシェアのウーバーを使ってもいいので自宅に持って帰ってもらった。それでも不安な従業員は自分の車で取りに来るケースもあったようだ。

社内のコミュニケーションはどのように取っているのか?

1日に1回30分間、主要なスタッフがネット会議で集まって、ビデオやチャットで情報を共有するようにしている。当社はグーグルのサービスを利用している。ある意味で従来よりも密にコミュニケーションが取れているかもしれない。当初は毎日のように調整すべき内容があったが、次第に落ち着いてきた。

危機に対して非常にうまく対応しているように見える。

今回はある程度ロックダウンの可能性が噂されていた。そのため、店舗、オフィス、倉庫、それぞれが使えない場合についてメンバーでシミュレーションしていた。また、前週に顧客対応の社員が使うパソコンにVPNのソフトもインストールしておいた。セキュリティ確保のため、VPNアクセス用の情報は今回の事態になってから教えた。

ロックダウン後に苦労した点は?

人事面だろう。人事コンサルタントと毎日のように、従業員の雇用や勤務の形態においてどのように対応すべきかを相談した。連邦政府からさまざまな支援制度が出ているが、同じ州でも自治体からのアナウンスがあったりなかったりした。勤務ができなくなった店舗の従業員には有給休暇を取ってもらったり、公的な支援制度を利用してもらったりしている。給与が支払えなくても、健康保険などの福利厚生は利用できるようにしている。

 配送などの稼働している拠点ではソーシャルディスタンスを保つ必要もある。各スタッフ同士が6フィート(約1.8メートル)離れる必要がある。しょうがないことだが、作業効率が落ちている。

感染の影響が収まった「コロナ後」に向けて考えていることは?

今回の事態でリアル店舗の持つ意味が変わってくると思っている。店で買ったものを店で受け取り、ネットで注文したものは宅配されるという今の形態が変わってくるのではないか。実際、ネットで購入して店舗で受け取り、店舗で見ながらネットで購入することにも取り組んでおり、今後も進むだろう。コロナ後を見据え、ネットを活用した戦略で攻めていく考えだ。

NIKKEI STYLE

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