仮説を数多く用意せよ 問題解決に導く「推論」の極意『問題解決力を高める「推論」の技術』

海運業のバックオフィスにいた頃、上司から自社の海上タクシーの売り上げ調査を命じられた。売り上げが突然伸び始めたのだが、その要因が明確でなかったからだ。客層や客単価、景気動向といったデータを洗い出さなくてはならないのかと、ため息が出た。

こんなときに威力を発揮するのが「推論力」だ。素早く仮説を立て、検証し、より確実性の高い結論を出す。本書『問題解決力を高める「推論」の技術』は、この推論力を成り立たせる3つの思考法とその手順(頭の使い方)を解説している。

著者の羽田康祐氏は、朝日広告社プランニングディレクター。外資系コンサルティングファームに勤めていた経験を持つ。

「背景」は一つではない

推論力は3つの思考法からなる。その3つとは「帰納法」「演繹(えんえき)法」「アブダクション」だ。帰納法は複数の事実から共通点を発見して結論づける思考法。「法則」を見いだす方法といってもいいだろう。演繹法は前提となるルール、例えば「客単価が上がれば、売り上げが上がる」という一般的な法則に物事を当てはめて結論を得る思考法だ。

アブダクションは「仮説形成」という意味だ。起こった現象に対していくつかの法則(因果関係)を当てはめ、その現象をうまく説明できる仮説を導き出す推論法である。一見、演繹法に似ているが、演繹法が「妥当な」結論を得るのに適しているのに対し、アブダクションは「新たな」「多様な」仮説を立てられるのが強みだ。

ごく簡単な、アブダクションの典型的な例を見てみよう。頭の使い方は次のように進む。

(1)起こった現象を認識する(売り上げが落ちた)
(2)法則を当てはめる(買う人が減れば売り上げは落ちる)
(3)仮説を導く(売り上げが落ちたのは、買う人が減ったからだ)

このとき、(2)を「商品単価が落ちれば売り上げは落ちる」という別の法則に入れ替えれば別の仮説(売り上げが落ちたのは商品単価が下がったから)が立てられる。すなわちアブダクションのキモは、法則の入れ替えを多彩に行うことで多様な仮説を立て、それにより現象の「背景」を多面的に探ることにある。同時に「ああすれば、こうなる」という法則をたくさん持っている者が有利、ということだ。

「ああすれば、こうなる」をストックするためには、先述の帰納法で物事の共通点を見抜く洞察力を鍛えておくとよいという。本書の示す3つの思考法は、組み合わせて使うことでいっそう効果的になるのだ。

ちなみに冒頭の売り上げ調査にあたっては、先輩が「売り上げが伸びたのはユニークな船長がいるから」との仮説を立てた。「慣れない土地を訪れる外国人客は、船長の人柄を重視する」という経験則を思い出したという。実際に調査を進めると、富裕な外国人客が船長の人柄を気に入り、帰国後に周囲にもその船長を指名するよう勧めていたということがわかった。

今回の評者=はらすぐる
情報工場エディター。地方大学の経営企画部門で事務職として働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディターとして活動。香川県出身。

問題解決力を高める「推論」の技術

著者 : 羽田 康祐
出版 : フォレスト出版
価格 : 1,760円 (税込み)

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