WHO(世界保健機関)が新型コロナウイルスの感染拡大についてパンデミック(世界的大流行)の状況にあると発表した。経済活動にも深刻な影響が出ているが、日々の業務が止まっているわけではない。新型コロナ関連で生じる問題や疑問が発生していると思われ、筆者の元にも相談が寄せられている。

新型コロナウイルスが広まる中でも、仕事を休めない従業員は多い(写真/Shutterstock)
新型コロナウイルスが広まる中でも、仕事を休めない従業員は多い(写真/Shutterstock)

Q1 従業員の感染が発覚した場合、企業はこのことを公表する必要はあるか。

A1  公表するかどうかについて、特にルールがあるわけではないため、「公表する必要がある」とはいえない、ということになる。実際に公表するかどうかは、ケース・バイ・ケースで判断するしかない。

Q2 ケース・バイ・ケースというが、一般論として、どういうケースだと公表すべきだといえるのか教えてほしい。

A2 当該従業員がどのような業務に就いていたのか、を考えるべきだ。不特定多数の人に接する業務をしていた場合には、不特定多数に感染を拡大させてしまっているリスクが生じる以上、公表する方向に判断が傾くと思われる。

従業員の感染を公表する場合、対策も併せて公表すべきだ

Q3 公表する場合はどのような点に留意すべきか。

A3 公表することで無用な混乱を招くことは避けなければならない。そのため、感染経路が判明しているのであればそれを、また、濃厚接触をしている可能性がある人物がどのくらいおり、その者らが感染しているのかの調査状況、当該社員からの拡散防止のためにどのような措置・対策を取ったのかは、併せて公表すべきだ。

 また、飲食店などの店舗であれば、周辺の店舗にも悪影響が出てくる場合がある。そのため、公表について事前に根回しをしておき、可能であれば周辺店舗で感染についての対応を取っていることなども併せて公表した方がよい場合もあるだろう。

Q4 従業員の感染を公表しないまでも、社内には告知すべきか。

A4 労働基準法、労働安全衛生法は「労働者の安全と健康を確保する」ことを要請しており、一般的に会社には従業員に対する安全配慮義務があるとされている。感染についての告知に明確なルールがあるわけではないが、安全配慮義務の観点からすれば、社内で感染者が出たことは告知すべきだろう。

Q5 同じビルの他のテナントにも伝えるべきか。

A5 義務があるわけではないが、感染拡大の防止という観点からは同じビルの他のテナント程度には伝えるべきだ。

Q6 社内や同じビルの他のテナントに告知する場合、病気に罹患(りかん)したというのはプライバシーに関わる内容なので、何か手続きが必要になるか。

A6 名前を出さなくても告知をすることは可能ではあるが、告知について本人の同意を取っておけば問題は生じない。仮に同意がなくても、正当な理由に基づくものであるため、プライバシー侵害とはいえないだろう。また、個人情報保護法上も、人の生命、身体の保護や公衆衛生の向上といった観点から第三者提供が許される場合といえる。

感染で欠勤した場合、傷病手当金を得られることもある

Q7 感染した従業員が会社を休んでいる場合、給与の支払いは不要という理解でよいか。

A7 通常の病欠と同じ扱いになるため、従業員が有給休暇を使用した場合を除いて給与の支払いは不要だ。

 なお、被用者保険に加入している従業員の場合、療養のために労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から、直近12カ月の平均標準報酬日額の3分の2について、傷病手当金により補償を受けることができる。

Q8 従業員の家族の感染が発覚した場合、その社員を自宅待機にする必要があるか。

A8 本人が感染したわけではない以上、自宅待機にさせる必要はない。ただし、感染の可能性は比較的高いといえるので、検査を促すべきだろう。

Q9 感染が疑われるため、自宅待機にした場合に給与の支払いは必要か。

A9 会社からの指示によって休業を命じていることになる。労働基準法26条は、「使用者の責に帰すべき事由による休業」に当たる場合は、平均賃金の60%の休業手当を支払う必要があるため、この支払いが必要ということになる。

 なお、自宅でリモートワークができる体制を整え、実際にリモートワークをしている場合であれば、休業補償ではなく通常の賃金を支払うことが必要になる。

Q10 自粛続きで今後の需要が見通せず、事業継続もできるかどうかが分からないため、採用内定を取り消したい。内定取り消しをすることは問題ないか。

A10 内定は、一般に解約権が留保された労働契約であるとされている。しかし、解約権が自由に行使できるわけではなく、解雇をする場合に準じるような要件を満たさなければ、有効に行使できない。経済状態などを理由とする場合は、整理解雇に準じる要件を満たす必要があり、単に先行きが不安だという程度では足りず、合理的に考えて整理解雇をする必要があり、それを回避するための努力や、内定者との十分な協議などが必要になる。これらをせずに一方的に内定を取り消せば、場合によっては慰謝料請求を受ける恐れは否定できない。

Q11 感染防止のために、従業員の会合、多人数での飲食禁止を通達したいが、問題ないか。

A11 業務上のことであれば、会社からの業務命令として問題ない。しかし、会社と無関係な時間、例えば休憩時間や終業時間後の時間、休日などについては、会社の指揮命令は及ばない。そのため、あくまでも「お願い」という程度の意味合いであれば問題ないが、強制したり、違反者を処分したりするようなことは違法となる。

社用車を社員に貸した場合、運行供用者責任と使用者責任が生じる

Q12 満員電車を避けさせるために、通勤・退勤の移動に社用車を貸し出そうと考えているが、どのようなリスクがあるか。

A12 社用車を貸した場合に発生する責任は、「運行供用者責任」と「使用者責任」の2種類だ。運行供用者責任とは、自動車損害賠償保障法3条が定める責任であり、簡単にいえば、自己のために自動車を運行の用に供する者(運行供用者)が、人身事故について賠償する責任のことだ。会社が従業員に社用車の使用を許諾している限り、会社が運行供用者となる。従って、従業員が社用車で人身事故を起こした場合、その責任を負うというリスクがある。

Q13 従業員が社用車で物損事故を起こした場合は、責任を負わないという理解でよいか。

A13 運行供用者責任は人身事故に限られるため、運行供用者責任は負わない。しかし、事業の執行について第三者に加えた損害については、会社は使用者責任を負うことになる。会社の業務中や、通勤・退勤中の合理的経路内で発生した事故については、一般的に事業の執行について発生したものと判断されることになるため、物損事故でもこの責任を負うことになる。

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