AI(人工知能)の高度化とカメラの低価格化によって、映像で人物の属性や行動あるいは顔の特徴を特定する技術が広がっている。本特集では、小売店や飲食店などでも格安で導入できる「映像解析/顔認証」の最前線を追う。第1回は北海道の「サツドラ」の防犯やマーケティングに生かす事例を紹介する。

北海道を中心に展開するサツドラ(サッポロドラッグストアー)は20年内に100店舗でAI画像分析システムを導入する計画を立てている。写真はサツドラ桑園北8条店
北海道を中心に展開するサツドラ(サッポロドラッグストアー)は20年内に100店舗でAI画像分析システムを導入する計画を立てている。写真はサツドラ桑園北8条店

 第3次AIブームを引き起こすきっかけとなったディープラーニング(深層学習)が得意とするのは、アナログデータの中に隠れた特徴や意味を見つけ出すこと。中でも映像に何が写っているかを判断する画像認識の分野で応用が進んでいる。ITコンサルのアイ・ティ・アール(東京・新宿)によると、画像認識AIの19年度市場規模は50億円弱で、21年度には約100億円と2倍の規模で成長すると予測する。画像認識のAIは、言語解析や翻訳などその他のAI分野と比べて、最も伸びているという。

 海外では、米アマゾン・ドット・コムの「Amazon Go(関連記事:登場! 生鮮版Amazon Go(中)AI以外に必要なあの作業)」のように、AIカメラを活用し、販売業務にかかる人手を極限まで減らそうとする小売店が登場している。その動きが日本国内でも広がり、小売りの現場が大きく変貌しようとしている。北海道大学発のスタートアップと組み、実店舗でAIによる映像解析を進めようとしているのがサツドラ(サッポロドラッグストアー)だ。

天井に設置した防犯カメラをAI化

 新型コロナウイルスの影響でマスクは品切れ。それでも、お昼前の店内は主婦とみられる買い物客でにぎわっていた。店内には薬やコスメだけでなく、菓子や麺類などの食品が豊富に並ぶ。ドラッグストアというよりは、スーパーマーケットにも近い。天井に目を移すと、22台ものカメラがぶら下がっている。そこから短冊のように垂れ下がる紙には「防犯カメラ作動中」と注意書きがあった。

 サツドラは北海道で約200店舗を展開するチェーンストア。販売する商品の中で食品の比率が約4割と高く、生活に密着した身近なお店として地元の人々に親しまれている。サツドラは20年内に100店舗で防犯カメラの映像を使ったAI分析システムを構築することで、防犯やサービス向上に活用する計画を立てている。

サツドラの店内の様子。天井からつり下がっている防犯カメラを活用することで、AIを活用した映像解析を低コストで導入する
サツドラの店内の様子。天井からつり下がっている防犯カメラを活用することで、AIを活用した映像解析を低コストで導入する

 導入するのは北海道大学発のAIスタートアップのAWL(アウル、東京・千代田)が開発したシステムだ。アウルの前身となる会社の主要メンバーと、サツドラの富山浩樹社長は「AIを活用してリテールを変えよう」と意気投合。2017年にサツドラHDグループへ入り、サツドラの店舗の協力を得ながら映像解析AIの開発や実験を進めてきた。その後、アウルは他社の店舗へも導入を進めるため19年に独立しているが、現在もサツドラと密接な連携を取っている。

既存の防犯カメラを活用

 サツドラが導入するAIシステムの特徴は、導入と運用コストの安さだ。余分なコストを可能な限り減らしたいという小売店の実情に合わせ、「日本の半導体開発会社や台湾メーカーの協力を得ながら、大幅に低コスト化した」と、アウルの土田安紘CTO(最高技術責任者)は話す。

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