「あり得ない」ホントにゼロ%か 便利言葉に潜むワナ

遺憾、不徳、断腸などに漂う「とりあえず感」

決まり文句は便利だ。言葉のプロではなくても、それらしくコメントやメッセージを発する手助けになってくれる。テレビ番組で料理を紹介する、いわゆる「食レポ」の場合、「おいしい」だけでは済まない。リポーターそれぞれが味わいを伝える言葉選びに苦心している。「まいう~」や「宝石箱や」などの名フレーズもこうした工夫から生まれた。もっとも、最初はオリジナルだった表現も、あっという間に消費され、陳腐化していくので、表現者の苦労は絶えない。

ただ、近頃の常套句的な表現には、やや誇張のきらいがある。たとえば、「それって絶対、おいしいやつだ」「(美人、優秀、便利、最高)すぎる」「殿堂入り」「~が○○するレベル」「神」「禁断の」「これは反則」といった表現は、高い評価を強調する目的で用いられやすい。ネット媒体の見出しで多用されるのも、読み手を引き込む効果を期待してのことだろう。

最初のうちは目新しかったこれらの表現も使用頻度が高くなって、陳腐なイメージが強まっている。「とりあえず、このあたりの表現で盛り上げておけば、関心を引くだろう」といった発信者側の計算が透けて見えるようになったことも、これらの誇張表現の価値を落としているようだ。

決まり文句を使うことのマイナス点は、発信者の存在が薄くなってしまうことにもあるだろう。とりわけ、謝罪会見のような、誠実さが求められる場面での常套句使いは、謝る側の誠意を疑わせてしまう点で、得策とはいいにくい。

「遺憾を表明します」「不徳のいたすところ」「慚愧に堪えません」「断腸の極み」あたりは、謝罪コメントの四天王とも呼べそうな常套句だ。しかし、これらを耳にするたびに、かえって「本気じゃないだろう」「とりあえずのポーズ」というネガティブイメージが視聴者の側にはわき上がってしまいやすい。理由は単純で、何度も耳にしてきたからだ。

過去の謝罪コメントをなぞると、「前例に従っておこう」という事なかれ主義の印象を与えてしまいやすくなる。安全策を選びたい謝罪者サイドの気持ちは想像に難くないが、そこに「調査中」「第三者委員会の判断待ち」「刑事事件につき、回答を差し控えたい」など、真相究明を阻むかのような、別の常套句が重なると、ますます「お前もか」といったネガティブイメージが濃くなってしまう。「真相究明に協力していく」というメッセージすら、真実味が薄れてしまいかねない。

その点、自分の言葉で発したメッセージは比較的、好意的に受け止めてもらいやすい。謝罪会見ではないが、中居正広さんがジャニーズ事務所を退所すると発表した記者会見は、彼のオリジナルな言葉選びが好感を与えた。SMAPの再結成に関する可能性を示した「1%から99%の間」のような表現は、中身としては「ゼロではない」という意味であり、多くの記者会見で仮定の質問への回答としてしばしば示されるものだが、彼自身の数値表現が「ゼロではない」以上の期待感を呼び込んだ。「可能性の質問にはお答えできない」という、役所的なつっけんどんな応じ方とは段違いにヒューマンな答と映った。

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