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型にはまった物言いは当たりさわりのない会話でよく使われる(写真はイメージ)=PIXTA

型にはまった物言いは当たりさわりのない会話でよく使われる(写真はイメージ)=PIXTA

ありきたりの常套句は便利な道具だ。オリジナルな言葉を考えるのは、結構、面倒くさい。自分の気持ちを正確に言い表すには、言葉をアレンジする能力が求められるが、ありきたりではない表現を考え出すのは、プロの物書きでも苦労する。だから、一般的な会話やメッセージでは、往々にしてありきたりの物言いが選ばれやすい。インターネット上では「それな」「同意」といった、同調のニュアンスだけを示す、端的な表現も重宝がられているようだ。

かつて小渕恵三首相(当時)は自らを「ボキャ貧(=ボキャブラリー貧困)」と自嘲して、流行語にもなった。今の安倍晋三首相も使う言葉のバリエーションはそう多くないようにみえる。公式発言では「誠心誠意」「全身全霊」などの4字熟語を好んで使っている。近頃はスピード感をアピールする「ちゅうちょなく」がお好みのようだ。新型コロナウイルス関連の答弁では、「ちゅうちょなく」が多用されている。

ただ、こういった決まり文句的な表現は、使う人が期待するほどには、熱意や真剣さを伝えにくい。使い古された言葉だけに、新鮮味が乏しく、かえって「型通り」の印象を呼び覚ましてしまうからだ。むしろ、「一生懸命に見せかけるポーズ」といったイメージを与える点では逆効果とさえいえるだろう。不祥事が起きた後の会見でよく耳にする「真摯に受け止め」「肝に銘じ」などには、無難にやり過ごそうという腹づもりまで透けてしまう。

もっとも、ありきたりの物言いで、体裁を整えておこうという言葉遣いは、別段、政治家に限らない。記録を更新したり、仕事を成功させたりした人が記者会見で述べる言葉に多いのは「感謝しかありません」だ。大抵は本心なのだろう。飾らない謙虚な気持ちとして受け止めることができる。ただ、あまりに頻繁に使われていて、ほとんど「お約束」のようになりつつある。「まずは『感謝しかありません』と言っておけば、偉ぶらない控えめな態度として格好がつく」という免罪符的な使われ方とも映る。

そもそも誰に対する感謝なのだろう。相手が明示されないケースも少なくない。多くの場合は、スポーツ選手であればスポンサーやチームメート、ファン・サポーター、家族といったところだろう。映画俳優であれば監督やスタッフ、共演者、観客などとなりそうだ。実際、米アカデミー賞の受賞スピーチでは関係者への感謝を延々と名前を列挙するケースが珍しくない。その点、「感謝しかありません」の一言で済ませる物言いは実感を伴いにくいところがある。「とりあえず、これを言っておけばさまになる」といった気持ちもにじむ。

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