ひらめきブックレビュー

GAFAと戦わず稼ぐ 日本企業に最適なデジタル戦略とは 『日本型プラットフォームビジネス』

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「プラットフォーム」という言葉をよく耳にするようになった。いわゆるデジタルプラットフォームとは、主にインターネットを介して第三者に多様なサービスを提供する「場」を指す。巨大プラットフォーマーGAFA(グーグル・アップル・フェイスブック・アマゾン)の一角アップルでいえば、アプリを売買する場のApp Storeがプラットフォームにあたる。

もっとも、プラットフォームといわれても、「わが社にはIT事業は関係ない」などと敬遠する方も少なくないのではないだろうか。そんな方にこそ、本書『日本型プラットフォームビジネス』を開いていただきたい。

まず、本書のいう「プラットフォームビジネス」は、プラットフォーマーのビジネスに限らない。プラットフォームをとりまくエコシステムによる「ビジネス提供の基盤を担う存在」を指し、例えばアプリの提供者も含まれる。

本書は、農業、流通、医療、自動車など、さまざまな産業から国内企業の19の成功事例を取り上げ、日本企業に求められるビジネスモデルについて提言している。著者は、野村総合研究所のコンサルタントを務める小宮昌人氏、楊皓氏、同社プリンシパルの小池純司氏だ。

■小さなニーズをすくい上げる

著者らによれば、プラットフォームビジネスにおける戦略は、(1)自社でプラットフォーマーになる場合と、(2)既存プラットフォーマーを活用・連携してビジネスの拡大を図る場合に大別される。

自社でプラットフォーマーになる場合は例えば、グローバルな巨大プラットフォーマーに正面から挑むのではなく、すみ分け領域を定めて個々の産業分野や地域にカスタマイズする戦略がある。

一例が、建設機械メーカーのコマツなどが手掛ける、建設業企業をエンドユーザーとするプラットフォームのLANDLOGだ。外部パートナーには、建設会社にとどまらず、リースや保険、エンジニアリングなど、さまざまな業種の企業が名を連ねる。彼らは、LANDLOGを介して建設業企業にアプリを提供し、課金収入を得ている。コマツは、パートナー会費に加え、アプリ収入手数料を得られる。LANDLOG上には、コマツや他社の建機に搭載されたセンサーから得られる位置情報や車両情報などのデータも公開されており、パートナーはそれらのデータを活用してアプリを開発することができる。

巨大プラットフォーマーは、グローバルに規模を拡大して効率化を志向するため、顧客のニーズや課題に対応したきめ細やかなソリューションの提供は難しい。LANDLOGは、すみ分け領域を定め、建設業界に特化することで、小さなニーズや課題を掬いあげている。

■「現場感」という強みを生かせ

一方、既存プラットフォーマーを活用・連携する戦略であれば、中小企業にもチャンスがある。現場感にもとづく専門的ノウハウを生かすのだ。

例えば、福島県郡山市の陰山建設は、地方の建設会社である。しかし、着工から竣工までの建設プロセスを可視化するアプリ「ビルディングモア」を開発し、先述のLANDLOG上で建設業企業に提供している。社内にアプリ開発技術はなかったが、LANDLOGを通じて技術をもつ企業の紹介を受け、共同開発したという。既存プラットフォーマーを活用し、まったく新しいビジネスの創出につなげた例だ。建設現場についての専門的な知見をアプリに落とし込み、自社の強みを生かした例でもある。

プラットフォームビジネスには、企業の立地や規模、産業種別にかかわらず、参入のチャンスがありそうだ。読後には、視点を変えて事業を見直し、ポテンシャルを探ってみたいと感じるはずだ。既存のビジネスに行き詰まりや物足りなさを感じる方は、本書から、新たな気づきを得られるに違いない。

今回の評者=前田真織
2020年から情報工場エディター。2008年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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