価値観が大きく変化する今こそ、インナーブランディングが必要ではないか。そんな問題意識で企画した特集の第1回は、創業3年目のスタートアップの事例を取り上げる。自分たちが提供する価値の本質が伝わらないもどかしさに悩む創業者は、対顧客の前に、対社員のブランディングに取り組んだ。

企業の契約マネジメントシステムを提供するHolmes(ホームズ)は、創業者のある思いからスタートした(画像/ホームズのHPから)
企業の契約マネジメントシステムを提供するHolmes(ホームズ)は、創業者のある思いからスタートした(画像/ホームズのHPから)

 モノを効率よく生産し、供給するだけの旧来型ビジネスモデルは限界を迎えつつある。生活者が求めるのはもはやモノではなくコト。そこでしか得られない体験こそ価値の源泉となる。デジタル技術の進歩も、変化を迫る。顧客のライフスタイルは大きく変容する。販路が変わり、顧客とのタッチポイントも変わる。

 これらが企業に影響を与えないはずがない。これまで通りの生産活動に終始していては時代に取り残されてしまう──そんな危機感を肌で感じているビジネスパーソンは少なくないはずだ。

 かつてグローバル市場を席巻した日本の家電メーカーの競争力が、著しく低下している。その原因の一つは、モノを作って売り切るという社内の固定観念を変えられなかったことにある。売り切り製品としての多機能化に偏重し、体験価値の創出やビジネスのサービス化に乗り遅れた。

<特集 インナーブランディングの時代>
【第1回】今こそ社員向けブランディング 大企業もスタートアップ企業も ←今回はココ
【第2回】知名度なくしたOEM産地がインナーブランディングで復活するまで
【第3回】「すべては、猫様のために。」 秀逸コピーが好調企業の推進力に
【第4回】京急本社ビルがミュージアムに 人々の笑顔が社員の意識を変える

 トヨタ自動車が力を入れる「トヨタイムズ」。テレビCMも盛んに打っているが、実は社内向けのインナーブランディングの要素も強い。豊田章男社長はトヨタイムズの中でこう語る。

 「トヨタグループというのは、織機を作る会社からクルマを作る会社に、企業全体をモデルチェンジした経験がある会社なんです。それで今、自動車産業も『100年に1度の大変革』といわれています。ですから我々の今までの経験、企業全体をモデルチェンジした経験を、そのDNAを、今度は未来に向けてどう生かすか。それが今回(編集部注:CES2020におけるTOYOTA Woven Cityの発表)だったと思うんですね。」(トヨタイムズのHPから)

 まさに時代の転換点において、社員の意識改革を促す言葉といっていいだろう。

 自社が提供すべき価値とは何か、顧客や社会とのつながりはどうあるべきか──。企業のDNAともいうべきビジョンをもう一度点検して再構築する、あるいはそもそも曖昧なのであればそれを明確にして社内で共有する作業、つまりインナーブランディングが、あらゆる企業に必要なのではないだろうか。

 外向けのマーケティング、ブランディングももちろん重要だが、今こそ着手すべきはインナーブランディング。そんな問題意識から始まった今回の特集。価値観が大きく変化する時代に、さまざまな理由からインナーブランディングに取り組む企業の事例を4回にわたって紹介していく。

社員数20人で感じた「伝わらないもどかしさ」

 契約書の作成から締結、管理など、企業の契約にまつわる業務プロセス全般を最適化する契約マネジメントシステムを開発、サービスとして提供するHolmes(ホームズ、東京・千代田)。2017年3月31日に設立したばかりのスタートアップ企業だ。2018年にはシリーズAラウンド総額約5.2億円の資金を調達している。

 設立から約3年たった20年2月末現在の社員数はおよそ50人。組織が大きくなり過ぎた、という規模ではまだない。にもかかわらず同社は、設立1年半後の18年末から、すでにインナーブランディングに取り組んでいる。社員数はまだ20人程度だったときだ。

次ページ以降の内容
・狙いは“価格競争”からの脱却
・ビジョンを可視化、浸透させる方法とは

このコンテンツ・機能は有料会員限定です。

NIKKEI STYLE

この記事をいいね!する
この記事を無料で回覧・プレゼントする