“教えるプロ”になるために……野球評論家 工藤公康

スポーツでも芸術でも、腕を磨くならその道を極めたプロに学ぶのが一番だと思われています。最高の技術を持った師匠につけば間違いない……。そんな“常識”に間違いはないか、野球界を例にみてみましょう。

プロ経験者が当たり前のようにアマチュアを教えられると思ったら大間違い

野球界には特別な事情があって、少し前までプロ野球選手と高校球児はうかつに話もできませんでした。プロアマの間に厚い壁があり、アマがプロに指導を受けるとペナルティーを受けかねなかったのです。

昔、プロが社会人野球の選手を強引に引き抜いたことから断絶が始まったのですが、様々な方々の尽力で、やっと同じ野球人としてつきあえるようになってきました。雪解けのきっかけの一つは2003年、プロ野球選手会が音頭を取って、全国の高校球児たちにボールと選手直筆のメッセージを書いて贈ったことでした。

球児たちにとっては、あこがれのプロからのメッセージ! 日本高校野球連盟(高野連)の方々の間にも、過去を引きずることなく、少しでも交流を進めようという雰囲気が出来上がりました。そして始まったのが、同年12月に初めて催された「夢の向こうに」と題した、現役プロ野球選手による高校球児向けのシンポジウムです。私も松坂大輔君(当時西武)らと参加しました。

こうしたことの積み重ねが実り、今オフにも研修を受ければ元選手が高校の監督になれるというところまで話が進みつつあります。

ただ、そこで1つ心配が出てきました。生徒、学生を指導する前に受けるべき研修に参加する元プロの数を、高野連などの学生野球側は「100人」と想定していたそうです。一方、プロ側は一時、実に「1000人」と申し出ていたと聞きます。この数字の食い違いの恐ろしいのは「元プロ野球選手はみんな高校生を教えることができるのだと思っているのかもしれない」というところなのです。

プロの世界まで行った人であれば、高校生にも大学生にもプロのレベルをきちんと教えられる……。果たしてそうでしょうか?

私はそうは思いません。

例えば小学生の子供たちの野球教室に、プロ野球OBの方や現役選手が参加することがあります。なかには子供たちにしっかりと基本を教え、ケガや故障をしないような指導ができている人もいるでしょう。しかし、そのような指導ができない人もいるかもしれません。だからこそ幅広い知識を身につけることが大事なのではないでしょうか。

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