2013/6/13

シニアの道具箱

これだけは押さえておきたい「田舎暮らしの事前チェックポイント」

さて最後に、田舎暮らしを検討している方に事前の「チェックポイント」を紹介しよう。

筆者はこれまでに数回、田舎暮らし関連の取材を経験し、都合10組ほどの“田舎暮らし実践者”にインタビューしている。小さな子供連れで縁もゆかりもない地域にIターンした20歳代の若い夫婦から、定年退職後に生まれ故郷にUターンした70歳代のシニアカップルまで年代は幅広く、移住先も北海道から沖縄まで全国に及ぶ。“先輩”たちの話を聞くと、田舎暮らしの難しさや思いがけない落とし穴が見えてくる。筆者なりにまとめた「これだけは最低限押さえておきたい注意事項」は以下の5点。「こんなはずでは……」といった事態に陥らないためにも、今の計画を再点検してみてほしい。

(1)インフラは整っているようでも、大都市圏よりやっぱり不便

「今どき、どんな田舎でもコンビニはあるし、インターネットも使えるさ」などと甘く考えていると、痛い目に合うかも。「コンビニは村に1軒だけで、しかも5キロ先。日用品を買い揃えられる大型スーパーは30キロ離れた隣の市にしかない」なんて地域はざら。通信インフラも地図上ではブロードバンドが使えるはずなのに、実際にはつながりにくい地域もある。

病院も同様。一通りの診療科がそろった公立の総合病院があると安心していると、周辺住民が集中するので「東京の大学病院よりも外来診療の待ち時間が長い」なんてこともあるようだ。住んでみないと、実情はわからないのだ。

(2)「地方は物価が安い」は幻想、生活費の見積もりはシビアに!

地方に行けば、魚、野菜、果物、お米など新鮮でおいしい生鮮食品が激安価格で堪能できる。この点は確かに田舎暮らしの醍醐味。ゴルフも割安の平日フィーやオフシーズン料金でいろいろなコースを回れるし、源泉掛け流しの天然温泉を銭湯並みの低料金で利用できる。これも間違いない。

だが、生活コスト全体はむしろ高くつく可能性の方が大きい。加工食品や洗剤、トイレットペーパーなどの日常生活用品の値段は都会と変わらないし、買い物に行くのにガソリン代が余計にかかる分だけ割高になるかもしれない。送料無料のはずのネット通販も、離島や山間地などでは別料金がかかることもある。国民健康保険や介護保険の料率も地方は総じて大都市圏より高いし、電力料金が割高な地域もある。生活費の計算はシビアに考えておくのが無難。

(3)四季折々で楽しみは多いが、暮らすには“いい季節”だけじゃない!

コンクリートで囲まれた都会では絶対に味わえないのが、四季折々の「自然の移ろい」を間近に実感できること。とはいえ、当たり前の話だが「旅行で訪れる」のと「その土地で生活する」のは全く次元が異なる。北国の厳冬期の厳しさは都会人の想像を超える。夏場の暑さや梅雨時の降水量がハンパじゃない地域もある。「わかっていたつもりだが……」という誤算は、決まってそんな「季節感の読み違え」に起因している。

最近は移住希望者のために自炊型の長期宿泊施設を格安料金で提供している自治体も多いので、「季候の良い時期に1~2週間滞在してみて、気に入ったら今度は真冬に滞在してみる」といった手順を踏んで最終決断したいもの。

(4)本当に地域コミュニティーに溶け込む覚悟はあるか

地方の人たちは人情が厚く、ご近所付き合いも濃密。懐に飛び込めば文字通りの家族付き合いをしてくれるが、プライバシーや個人的な予定を犠牲にしなければならない場面も出てくる。

東京から中国地方の山村に移住した20代のあるご夫妻は「最初の1年間は土日はほとんど返上して、祭りはもとより、どんな行事やお誘いも断らずに参加した」という。全く知らない人の十三回忌に当たり前のように招かれて、手伝わされたこともあれば、風邪で寝込んだときにはどこで聞きつけたか、村の人が入れ代わり立ち代わりやって来ては勝手に上がり込み、「有り難かったけれど、おちおち床に伏せてもいられなかった」とか。田舎暮らしを志すなら、地域社会に溶け込むそれ相応の覚悟が求められるのだ。

(5)自宅の処分・管理は中長期的視点で綿密にプランニングする

今住んでいる家を売り払って完全移住する場合や、自宅とセカンドハウスを行き来する“セミ田舎暮らし”を計画している場合は別として、自宅を処分するかどうか、留守宅のままにしておくのか、その間は誰に管理してもらうか、あるいは第三者に賃貸するか。「自宅の管理方針」は田舎暮らしに踏み出す際の最大の課題。

一番悩ましいのは、「元気なうちは地方で暮らして、将来的には戻りたい」という“期間限定”の田舎暮らしを考えているケース。必然的に今の家は残すという選択になるが、留守宅を誰かに貸した場合、戻ろうと思ったタイミングで明け渡してくれない心配がある。そこで、半年、1年、3年というように明確に期限付きの契約を結んで借り手を見つけてくれる仲介サービスを提供する不動産管理会社も現れている。そうした「田舎暮らしサポートサービス」を活用する手もある。

いかがだろうか。田舎暮らしを期待通りに成功させる必須条件は「事前の入念な情報収集と中長期的視点に立った綿密なプランニング」に尽きる。この点だけはくれぐれもお忘れなく。

次回は「福祉車両」にスポットを当て、家族構成、ライフスタイル、年代ステージ別の「シニアのためのクルマ選び」を考える。

高嶋健夫(たかしま・たけお) 1956年生まれ。79年早大卒、日本経済新聞社入社。編集局産業部、日経文庫編集長などを経て、99年フリーランス・ジャーナリストに。30代で目を患って以来、20年近く、共用品・ユニバーサルデザインの取材を続け、著書多数。主な著作に「R60マーケティング」(日本経済新聞出版社)「だれにとっても使いやすいバリアフリー生活用品100選」(同)などがある。
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