開発チームで「峠攻め」旅行 士気高揚へ工夫こらす
元マツダ「ロードスター」開発主査 貴島孝雄氏(10)
士気向上のため様々な企画を考えた(3代目ロードスターの開発チーム)
自動車メーカーのマツダに籍を置き、二人乗り小型オープンカー「ロードスター」の開発主査を務めた貴島孝雄(きじま・たかお)氏は、スポーツカーの世界では伝説的なエンジニアです。マツダを定年退職後、現在は山陽小野田市立山口東京理科大学の教授を務めています。貴島氏の「仕事人秘録」第10回では、3代目ロードスターの開発最終段階の思い出を語ります。
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ドライブ旅行で連帯感づくり
世界のベンチマーク(比較対象)となる小型オープンスポーツカーをつくるためには、開発チームで「人馬一体」という商品コンセプトを共有化することと、コンセプトを具現化する高いモチベーションが欠かせない。吉田松陰の名言「志定まれば、気盛んなり」という状態をつくるため、様々な工夫をした。
まず「コンセプトトリップ」と称し、本社がある広島から東京までのドライブ旅行を企画した。競合車を集め、六甲山や伊豆、箱根の曲がりくねった峠道を走りながら比較して意見を交換するのだ。「遊び」や「楽しい」という感覚をチームで共有するためだ。一緒に行動し、考えることで連帯感も生まれる。
チームのメンバーにそれぞれの担当分野で人馬一体を実現するための思いや構想を文章にさせ、各人の名前を付けた「コンセプトカタログ」として製本した。私は開発の成功を期し、このカタログを一人ひとりに手渡した。メンバーは事あるごとにこのカタログを読んで初心に帰り、熱い思いをよみがえらせた。
最近は自動車開発の担当分野が細分化し、隣の人が何をしているか分からなくなりがちだ。だが軽量化のため一グラムの無駄も見逃さない「グラム作戦」では、担当分野同士の接点で起きる小さな無駄も許されない。カタログで他のメンバーが書いた思いを読むことで、隣の人が何をしているのかを意識するようにした。
かつてスポーツカーには開発過程を記録する文化があった。クルマが生み出される際にどのようなエピソードがあったのか。こうした開発ストーリーは、スポーツカーの愛好者にとって魅力のひとつなのだ。
ただ、開発現場は最高レベルの機密を保持するため撮影禁止である。許可をもらってメンバーの顔写真や仕事をしているところをカメラに収めた。撮影の意図は開発が終わるまで説明しなかった。緊張感を維持してもらうためで、一部から嫌な顔をされながら記録を続けた。撮影した写真は発売時に公開し、商品イメージの向上に役立てた。