「ダイナミックプライシング」特集の3回目で取り上げるのはエンタメ業界。エイベックス・エンタテインメントは2019年12月31日に国立代々木競技場第一体育館で開催した浜崎あゆみのカウントダウンライブにダイナミックプライシングを採用した。国内著名アーティストとしては初の試み。担当者によると「チケット収入は1.5倍になった」という。

エイベックス・エンタテインメントは2019年12月31日に国立代々木競技場第一体育館で開催した浜崎あゆみのカウントダウンライブにダイナミックプライシングを採用した
エイベックス・エンタテインメントは2019年12月31日に国立代々木競技場第一体育館で開催した浜崎あゆみのカウントダウンライブにダイナミックプライシングを採用した

 「海外アーティストでは事例があるということで、以前からダイナミックプライシングには注目していた」と、エイべックス・エンタテインメントプラットフォーム事業本部チケットセールスグループゼネラルマネージャーの漆畑光裕氏は話す。

 同社は、三井物産の子会社でダイナミックプライシング事業を手掛けるダイナミックプラス(東京・千代田)と2019年3月に業務提携。どの案件でダイナミックプライシングを取り入れるかを検討していたという。そんな中、同社所属の代表的なアーティストである浜崎あゆみが、東京オリンピック・パラリンピックに向けた改修工事を終えたばかりの国立代々木競技場第一体育館でやるカウントダウンという特別なライブを選んだ。「浜崎自身、チャレンジが好き。ダイナミックプライシングにも前向きだった」(漆畑氏)という。

目指すのはライブ収益の最大化

 一般にライブなどの興行でダイナミックプライシングを導入する理由は大きく分けて3つある。

 1つ目が不正転売の防止だ。不正転売では、供給より需要が大きいために販売済みのチケットが定価を超える高値で売買され、定価との差額が転売屋の利益になる。ダイナミックプライシングによって販売段階で主催者が需要に応じた価格を設定できれば、転売の利益が小さくなり、不正転売を抑えられるという考え方だ。

 2つ目がチケット収益の最大化。人気が高いチケットを需要に適した高値で売れば、収益を拡大できる。

 3つ目が観客動員数の最大化。興行に残席が出た場合、チケット代を値引きして販売すれば、空席にするよりも多くの観客を呼べる可能性が高い。その分の売り上げは2つ目の収益の最大化にもつながる。

 加えてダイナミックプラス社長の平田英人氏が挙げるのが、観客の選択肢の拡充だ。ライブなどは座席位置にかかわらず一律価格のものも多い。「ダイナミックプライシングによって価格幅を持たせることで、観客にとっても選択の自由が広がる」(平田氏)。

 このうちエイベックス・エンタテインメントが重視したのが2つ目のチケット収益の最大化だ。「実はライブは収益があまり大きくないビジネス。特に浜崎のライブは演出が豪華で、ダンサーなど本人以外の出演者も多い。出演者にもっと還元するにはチケット収益をより大きくする必要がある」(漆畑氏)。

2019年12月31日に国立代々木競技場第一体育館で開催した浜崎あゆみのカウントダウンライブ。ダンサーなどたくさんのパフォーマーが登場する
2019年12月31日に国立代々木競技場第一体育館で開催した浜崎あゆみのカウントダウンライブ。ダンサーなどたくさんのパフォーマーが登場する

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