ひらめきブックレビュー

顧客より優位に立てる営業 折り合いつける6のスキル 『「この人から買いたい!」と思わせる技術』

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営業が得意だという営業パーソンはどれだけいるだろう。中には値段交渉、利害調整などにストレスを感じたり、思うように成果が上がらずに苦しんでいる人もいるのではないか。

クライアントから「YES」をもらう力、すなわち「合意形成力」を高めるメソッドを披露しているのが本書『「この人から買いたい!」と思わせる技術』。合意形成力を「マウントスキル(信じられる技術)」「アジャストスキル(ベクトルを合わせる技術)」など6つのスキルに区分し、それぞれの実践方法を解説している。著者の鷹尾豪氏は、株式会社ギブ・スパイラル・ジャパンの代表取締役。日本に200人しかいない交渉アナリスト1級保有者である。

■相手の「困る」をつかむ

合意形成力を支える6つのスキルのうちの1つが「リーディングスキル」だ。シンプルに言うと主導権を握る技術である。お金を払うクライアント側に主導権があると思いがちだが、交渉では営業パーソンがクライアントより優位に立つという発想が必要なのだ。

相手より優位に立つには、「欲しい」と「困る」に当たる情報を把握することが重要になる。例えば以前、私の会社で海上運送に使う小型船舶が故障したことがあった。できるだけ早急に代替機が必要だが扱っている会社は多くない。そのとき、自社のニーズを満たせるA社の営業パーソンは価格交渉で強気の姿勢を貫いた。相手の「欲しい」「困る」をつかんでいれば交渉を優位に進めることができるのである。

だが話はこれで終わらない。その後A社との取引は少なくなった。双方が納得した上での合意形成でなくては、長期的な成果にはつながらないだろう。そこで、交渉を利害の衝突から一段飛躍させるためのスキル「アジャストスキル」の出番だ。アジャストスキルとは、「共通利害」を見つけ出す手際のことだ。

これには「枠組み」の転換が有効だという。例えばある商品を5000円で買いたいクライアントと、7000円で売りたい営業パーソンがいたとする。「価格」の枠組みでは交渉は平行線だが、「取引量」という枠組みで考えてみる。すると「通常よりどれだけ多く取引するか」というテーマで交渉が進められる。つまり論点を切り替えれば、交渉の余地(合意可能な範囲)が広がるのだ。このように枠組みの切り替えが柔軟に行える営業パーソンは、共通利害や付加価値を発見しやすいという。

私自身、価格では折り合いがつかなかったのに大きな合意形成を経験したことがある。X社の機器を購入する交渉の最中に、わが社のデータがX社のシステム開発に役立つことが判明した。X社の営業パーソンはデータ提供の代わりに大幅に値引くことを提案してくれ、合意に至った。つまり、互いに次世代の機器開発を進めるという付加価値を発見したのである。

アイデアが生まれたのは使用現場の課題を意見交換したことによってだ。枠組み転換が自在に行えるようになるには時間と経験が必要だろうが、付加価値を創造するという視点に立てば、がぜん交渉も楽しくなりそうだ。一読後は、いっそ本書を取引先にも勧めてみてはどうだろう。

今回の評者=はらすぐる
情報工場エディター。地方大学の経営企画部門で事務職として働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディターとして活動。香川県出身。

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