重さがわずか76グラムと超軽量の折り畳み傘が売れている。手がけたのは釣り具ブランド「DAIWA(ダイワ)」で知られるグローブライドだ。価格は約1万円と決して安くはないが、店頭で手に取って値札も見ずに購入する人が後を絶たない。その狙いは意外にもブランド認知の拡大だった。
グローブライドが2017年4月に発売した「カーボンテクノロジーポータブルアンブレラ」は、傘の中棒(シャフト)に釣りざおに用いるカーボン素材を使用することで軽量化を図っている。50センチメートルサイズで、重さはわずか76グラムだ。17年4月に発売したところ、すぐに完売。その後も再入荷しては完売するという状態が続いていたため、19年から生産体制を強化した。
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釣り具メーカーが手がけているものの、想定する利用シーンは海や川ではなく都市部。同社が手がけるアパレルブランド「D-VEC(ディーベック)」の主力商品として、表参道ヒルズと原宿にある同ブランドの店舗やECサイトなどで販売している。
さらに、傘と並んで売られているのはニットやジャケット、ワンピースなど。どれも街中で着ても違和感のないデザインばかりだ。なぜ釣り具メーカーがファッションブランドを展開するのか。
釣り用品の技術を「雨や風に強い」というコンセプトで提案
グローブライドは1958年、「大和(ダイワ)精工」として釣り具の製造を手掛け、ゴルフや自転車などのレジャー業界にも進出。釣り具のブランド「ダイワ」は業界のトップブランドとして知られている。同社は2008年の創業50周年をきっかけに、翌09年にはグローブライドに社名を変更。同時にダイワブランドのイメージアップも図ろうとした。
ダイワのユーザーは40~50代男性が中心。女性で釣りをする人も少なくないが、他のアウトドアブランドの機能性ウエアで代用する人がほとんどだった。そのため、ブランドイメージを向上させてユーザーを拡大しようと考えた。だが、11年3月に東日本大震災が発生。釣りやゴルフなどのレジャー関係の消費が落ち込んだ。そこで浮上したのが、全く畑違いのアパレルに進出するという案だ。
「業界ではトップでも、釣りに興味がない人にはほとんど知られていない。ブランドの認知を広げるためにはアパレルをやるべきだと思った」と、同社執行役員でフィッシング営業本部 アパレルマーケティング部の小林謙一部長は振り返る。
釣り用品開発で培った技術を応用できるのも大きかった。炎天下や極寒の屋外で長時間待機するなど、釣りの環境は過酷だ。「船釣りの際は海水をかぶる可能性もあるため、ウエアの耐水性の基準はかなり高い」(小林部長)。街着にそこまでの機能性は必要ないような気もするが、ここ数年でゲリラ豪雨や大型台風の上陸などが増え、都市部の天候も変化してきた。同社の技術を「雨や風に強い」というコンセプトに落とし込むことで、釣りになじみがない人にも訴求できるのではないかと考えたのだ。
冒頭の傘も、通常の折り畳み傘の伸縮に必要な中棒のツメは使わず、釣りざおで培ったカーボン加工技術でアルミパーツを削減し、穴に弱いカーボンの耐久性・強度を損なうことなく軽量化したものだ。
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