日本で無類の強さを誇るヘアケアブランドがある。ユニリーバの「ラックス(LUX)」だ。発売から30年が過ぎ、今なおブランド別の売上高でトップを独走している。ハリウッド女優を起用したCMが印象的だが、実は開発、マーケティングの拠点は日本にある。パーパス(存在意義)を軸にブランドを再定義し、首位固めを狙う。

ラックス製品のブランディングを担当するユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングの内野慧太氏(左)と中川理彩氏(※「ブランド別売上高トップ」は、インテージSRI調べ)
ラックス製品のブランディングを担当するユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティングの内野慧太氏(左)と中川理彩氏(※「ブランド別売上高トップ」は、インテージSRI調べ)

日本生まれの「スーパーリッチ」

 スカーレット・ヨハンソン、ペネロペ・クルス、ジェニファー・ロペス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、ナタリー・ポートマン。そうそうたるハリウッド女優がゴージャスに、颯爽(さっそう)と登場し、「ラックス スーパーリッチ」と決め台詞(せりふ)を言う。実は、このCM、海外発ではない。仕掛けてきたのは、日本の拠点だ。

 ユニリーバ・ジャパン・カスタマーマーケティング(東京・目黒)である。「ラックス スーパーリッチ」を発売したのは1989年。ラックス初のヘアケア製品として、世界に先駆けて日本で華々しくデビューした。

 ラックスは、英国生まれのブランド。固形せっけんから始まり、海外ではボディーソープのイメージが強かった。「ただ、日本の時代背景や競合の状況を鑑みて、日本では、ヘアケアのブランドとして売り出そうと戦略を変えた」。そう振り返るのは、ラックス担当のアシスタントブランドマネジャー内野慧太氏だ。

 バブル景気に湧き、女性の社会進出が進み始めた時代。「海外のよさそうなシャンプーが日本に上陸したという先進性を出すため、あえてハリウッドスターをアイコンにし、『女性の憧れる存在になれるヘアケア製品です』とアピールした。それがブランドの軸となり、結果、シェアがどんどん上がっていった」(内野氏)。98年には、ヘアケア市場全体のブランド別売上高でシェアトップに躍り出る(インテージSRI調べ)。まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

 世の女性に受け入れられた最大の要因は、「社会の変化に対応し、『髪に輝きをもたらし、外に出たときに自信を与えてくれるシャンプー』という、今までにないベネフィット(便益)を打ち出せたこと」(内野氏)。日本で大成功を収めたため、現在もラックスのヘアケア製品の開発、マーケティング拠点は、日本にある。日本発で東南アジアや上海、台湾、香港などに展開するれっきとした「メード・イン・ジャパンのブランド」(内野氏)なのだ。

 もちろん、この30年間、ずっと順風満帆だったわけではない。最大の危機は2000年代に訪れた。03年、花王がアジアンビューティーをコンセプトに「アジエンス(ASIENCE)」を発売した。資生堂は06年、「TSUBAKI」を投入。「日本の女性は美しい」という鮮烈なキャッチコピーで市場を席けんした。

 「『日本を、アジアをもう一回見直そう』という時代が来た。ある種のナショナリズムがマーケット全体を覆い、『ハリウッド女優を使ったブランドってどうかな』と思われてしまった」(内野氏)。ナンバーワンの座から陥落し、しばらく雌伏のときを過ごすことになる。

迷走を経て気付いたブランドの根幹

 もっとも手をこまぬいていたわけではない。「日本人女性を起用するなど、いろいろな策を講じたが、やっぱりそういうことじゃない、と思い直した」(内野氏)。それが14年だった。誕生25周年のタイミングで「ラックスと言えばこれ」というブランドの根幹を見直した。それが、V字回復につながったという。

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