Webマーケティングにおける消費者誘導の王道「レコメンド」。その立ち位置が、AIの登場によって揺らいでいる。消費者本人すら気づいていない潜在的なニーズを浮き彫りにする「サジェスチョン」が可能になりつつあるからだ。オーダーメード型の「カスタムAI」を手掛けるスペシャリスト集団「Laboro.AI」が、その背景を2回に分けてひもとく。(後編はこちら

「検索」や「レコメンド」といった王道のWebマーケティング手法の歴史を振り返りつつ、まず課題を浮き彫りにする(写真/Shutterstock)
「検索」や「レコメンド」といった王道のWebマーケティング手法の歴史を振り返りつつ、まず課題を浮き彫りにする(写真/Shutterstock)

 欲しいものを検索ボックスに入力し、表示された数多くのお薦め商品の中から最も気に入ったものを選択する――。

 消費者から見れば「検索」、販売者側からすれば「レコメンド」と呼ばれるこうしたECサイト上での行動・手法は、インターネットの普及やビッグデータの恩恵を授かる現代において、もはや当たり前となった。もちろん、本当にユーザーの欲求を満たすものが表示できているかという精度面については、改善の余地がある。とはいえ、「ググる」というフレーズがもはや古めかしく感じられるほど、「検索&レコメンド」は、消費者の日常風景となった。

 その光景が今、AI(人工知能)技術の進化によって変わろうとしている。恐らくそれほど遠くない将来、検索という消費者側のアクションが不要となり、企業は要望に適した商品を消費者に提案することが可能になるだろう。言ってみれば、「レコメンドの時代」が終わり、「サジェスチョンの時代」が到来するのだ。起こりつつあるパラダイムシフトを、これまでの歴史と技術解説を交えて紹介していく。

そもそもレコメンドには難しい前提があった

 消費者がインターネット上で商品を探索する場合、入り口となっているのが「Google」などに代表される検索エンジンだ。Webマーケティングの担当者であれば、自社ホームページにおけるユーザー行動の分析に時間を割いているはず。仮に外部サイトからの流入であったとしても、その源流を遡れば何かしらのキーワードを使った検索に行きつく。検索と閲覧を繰り返して購入などの最終アクションを取るページへと行き着く一連のフローが、消費者の代表的なインターネット上における行動と考えていいだろう。

 こうした前提を暗黙として、現代のさまざまなWebマーケティングの手法はシステム化されている。つまり、入力するキーワードが頭の中で顕在化した状態にある消費者、言い換えるなら「欲しいものを探せる消費者」のみを対象に構築されてきたのである。

 裏返せば、現代のWebマーケティングツールであらゆる層の消費者ニーズをくみ取れるというのは、実は危険な捉え方だと言える。キーワードが頭に浮かんでいないニーズが潜在化している層、つまり欲しいモノ・コトを具現化できていない状態の消費者にアプローチするのは難しいという前提に立ってマーケティングツールは作られている。この点は、とかく見落とされがちだ。

 その責任を、検索エンジンの代表格である米グーグルに求めるのは無理があるだろう。なぜならグーグルの検索エンジンは、もともとは学生や研究者が学術論文を検索するシステムに端を発しており、基本的にテーマやキーワードが顕在化しているのが当然だという前提で開発されてきたからだ。

 グーグル創業者であるラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏が考案した検索エンジンの根幹を担うアルゴリズムが、「PageRank」だ。インターネット上にあるそれぞれの情報の重要度を評価し、検索結果を抽出するアイデアである。

PageRankのイメージ
PageRankのイメージ
Webページのリンクの数や質を考慮してランク付けし、検索結果の候補が選出される

 彼らがPageRankの開発に至ったのは、合致するキーワードのみで情報を抽出しようとする当時の検索システムの質が悪かったためである。学術論文の世界では、他の論文で引用されている論文ほど重要性が高いと評価される。さらに引用先の論文の価値が高いほど、引用元の論文の価値も伴って高いものとして認められる。ある論文から他の論文へのつながり、つまりリンクの数と質によって情報の重要度を評価する。この考え方がその後、PageRankとして広くインターネット検索に応用されることになる。

 グーグルが革命的だったのは、キーワードを用いて検索するという行動を前提に、スピーディーかつ大量により重要な情報にアクセスできる仕組みを考案したことにある。

アマゾンのレコメンドを支える「協調フィルタリング」とは

 ECサイトに革命を起こした「レコメンド」の火付け役である米アマゾン・ドット・コムも、やはりグーグルと同じ前提に立って技術を開発している。今では多くのECサイトがレコメンドシステムを導入し、自分に合うお薦め商品を提案する。アマゾンはシステムの詳細を明かにしていないものの、広義の「協調フィルタリング」というアルゴリズムが用いられていると考えられている。

 協調フィルタリングとは、文字通り協調、すなわち同じような条件に分類される者同士をフィルタリングして、両者の相関性を比べることを目的としたアルゴリズムだ。簡潔に言えば、「同じような行動をとった人は、次も同じような行動をとる」という仮定に基づいて、次の行動を推測する統計手法である。

 ECサイト上では、同じ商品を検索・閲覧した人は次も同じ商品を探すはずだと予測し、お薦め商品として「自分と同じ商品を見た人が閲覧した別の商品のうち、自分はまだ見ていない商品」をレコメンドする仕組みになっている。

協調フィルタリングによるレコメンドのイメージ
協調フィルタリングによるレコメンドのイメージ
ユーザー間の行動の類似度から推測して、興味がありそうな商品をレコメンドする

 ショッピング関連アプリなどでは、全く興味のない商品がお薦めされることは珍しくない。しかしながらこの現象は、自分と同じ行動を取った人が見た商品が単純に結果として表示しているだけなので、決してシステムエラーではなく当然の結果と言える。

 アマゾンをはじめとする多くのECサイトが活用している協調フィルタリングを用いたレコメンドに関しても、やはり顕在化した行動をベースに予測が行われている。具体的には、サイト上で検索したキーワードや閲覧履歴・購買履歴といった定量的に把握できるデータと、IDコードで数値分類された商品をひもづけることでレコメンド機能が成り立っている。これが、現代のレコメンドシステムの特徴だ。

 以上のように、あくまで消費者の顕在化した行動を前提にして、現代の検索エンジンやレコメンドシステムは販売やマーケティングの世界に革命をもたらしてきたわけだ。

今起こりつつある「AIパラダイムシフト」

 さて、では到来しつつあるサジェスチョンの時代は、レコメンドの時代と何が変わるのか。

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