ひらめきブックレビュー

「定年がない時代」をサバイバル 複数スキルの磨き方 『定年消滅時代をどう生きるか』

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「定年」がなくなったら、悠々自適の老後は、かなわぬ夢になるのだろうか? タイトルを見て心配になった中高年の方から、まだ「定年」に実感のない若手の方まで、まずは本書『定年消滅時代をどう生きるか』を開いてほしい。「雇用」に関わる幅広い世代にとって、これからの時代を楽しく豊かに生きるための指南の書だ。

そもそも、なぜ「定年消滅」なのか。理由の一つは社会保障制度の行き詰まりだ。よく知られるように、日本の生産年齢人口は減り続けている。働き手を増やすなどの手を打たなければ、現行の社会保障制度は維持できなくなる。

また、定年問題に限らず、日本の雇用環境は転期にある。「定年消滅時代」とは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列の日本型雇用制度が崩壊し、雇用が流動化した時代のことだ。経営アドバイザー・経済アナリストの中原圭介氏は、政策や企業活動、教育など、多方面から雇用をめぐる問題について分析。個人の働き方のスタイルや、心構えを説いている。

■即戦力が求められる時代

2019年、日本経済団体連合会の中西宏明会長は、「終身雇用を前提にすることが限界」と発言。日本自動車工業会の豊田章男会長も、終身雇用を維持する難しさに言及した。

これは、グローバル企業が持つ強い危機感の表れだ。終身雇用は、スキルが通用しなくなった社員を抱え込むしかなく、人件費の負担が増す。年功序列の賃金制度は優秀な若手も一律評価のため、彼らは高額報酬を支払う企業に流れる。これでは、世界の競合と同じ土俵に立てない。早期退職や通年採用の広がりも、同じ理由によるという。

本書で例としてとりあげられるのが、トヨタ自動車だ。2019年度、総合職の採用に占める中途採用の割合を18年度の1割から3割に増やし、中長期的に5割まで引き上げるという。自動運転やシェアリングといった潮流に対応するために、即戦力が必要なのだ。

■楽しく学び、働き続ける

中途採用が当たり前の世の中に、私たちは、どう対応すればいいのか。著者は、複数のスキルを持つことを勧めている。データ分析やマーケティングなど、転職で引き合いが強いスキルを身に付け、更新していくことがポイントだ。

これには、厳しい現実を突きつけられる思いがした。つねに自らの市場価値を高める努力をしていなければ、働き続けるのは難しいということだろう。ただし著者は、一人ひとりが仕事に対してやりがいや楽しみを感じることが、豊かな社会への道だと説く。磨くスキルは、仕事から派生したものや、趣味と関係のあるものでもいい。専門分野を磨きながら、それ以外の分野にも知見を広げることが重要という。

それならば、趣味や読書に今から意識的に取り組むことで、知見を広げられそうだ。せっかくならば、楽しく学び、働き続けたい。

今回の評者 = 前田真織
2020年から情報工場エディター。08年以降、編集プロダクションにて書籍・雑誌・ウェブ媒体の文字コンテンツの企画・取材・執筆・編集に携わる。島根県浜田市出身。

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