修繕痕や擦り切れにも美しさ 古美術鑑賞で感性を磨く『美を見極める力』

このところ美術を通じて、気づく力や感性を養成するメソッドが注目されている。しかし「美術から学べ」と言われても多くの方が当惑するのではないだろうか。そこで参考にしていただきたいのが本書『美を見極める力』だ。

本書は古美術(江戸から明治ごろの絵画や工芸)を中心に、日本美術100点以上の来歴や見どころを分かりやすく解説している。ただ鑑賞するだけでなく、美術品を「使う」という観点から、その魅力が語られているのが特徴だ。

著者の白洲信哉氏は日本文化に関する執筆やイベントプロデュースを手掛ける人物。父方の祖母は白洲正子で母方の祖父は小林秀雄。両者ともに骨董愛好家としても知られている。

破損した器の継ぎはぎに美を見いだす

著者いわく、日本美術の本質は使われることを「是」とする発想だ。注意深く保管し、時折眺めるのではなく、日常の生活の中で使って楽しむ。使っていくうちに色があせたり、欠けたり、変化していく。そうした変化を「美」として受け入れてきたというのだ。

例えば漆器の「根来(ねごろ)塗」。下地に黒漆、その上に朱漆という二層構造の漆器である。根来塗は使われることにより上層の朱漆がハゲて黒漆が姿を現す。暗闇に遠くの炎が浮かび上がるかのような黒と赤。巨匠・黒沢明監督は根来塗のコレクターで、作品内でも象徴的に使用していたという。経年変化の美に歴史の重層性を見出したのだろう。

また本書では、破損を修復した焼き物も紹介されている。修復には漆と金による「金継(きんつぎ)」や欠落した部分を似た陶片で補う「呼び継ぎ」という方法が採られており、金や漆のラインが縦横に走る姿は不思議な魅力を醸している。中国ではヒビの入った器は価値が激減するというが、日本では破損をかえって楽しんできたことがうかがえる。美術品はときに使う者こそが、「作者の意図を超えた美」を創作していたのだ。

ビジネスにおける感性を磨く

私を含めて多くの人の、美術への一般的な接し方は「美術館へ行って鑑賞すること」ではないだろうか。だが、「作者の意図を超えた美」という視点は、見るだけ、解説文を読んだだけでは得られないものだ。実際に触れ、使い、ときには傷をつけながら、その品がもつ良さや魅力を、自分で創り上げていく――そうしてもよいのだという本書のメッセージは、美術に対する見方を広げてくれる。

本書にもあるエピソードだが、茶人の千利休は朝鮮半島の雑器を使ううちに、高麗茶碗というジャンルを創り上げたそうだ。美しさを再発見していくという姿勢や感性は、実は市場の潜在的な課題を見つけ出す意識にも通じるものがあるのではないか。日本美術の世界は自由でイノベーティブなのだ。ビジネスにおける感性を磨くためにも、本書の知見を参考にしてみてはどうだろう。

今回の評者 = 倉澤順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。早大卒。

美を見極める力 古美術に学ぶ (光文社新書)

著者 : 白洲 信哉
出版 : 光文社
価格 : 1,320円 (税込み)

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