ひらめきブックレビュー

人ごとでない中高年引きこもり 苦しみと向き合うには 『中高年ひきこもり―社会問題を背負わされた人たち―』

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「自分はダメな人間だ」「それほど価値のある人間ではないのでは」。時にそんなネガティブな気持ちにさいなまれることは、誰しもあるのではないか。あるいは、友人や知り合いが、そのようなことを口にして落ち込んでいたら、あなたはどう言葉をかけてあげるだろうか。「誰でもそういう気持ちになることはあるよ。私も時折、そうやって落ち込んだりするよ」。そんなふうに、なぐさめてあげたりはしないだろうか。

40代以上の中高年が定職に就かず、自宅からほとんど出ない、いわゆる「ひきこもり」状態になるケースが増えているという。2018年度の内閣府調査では、40歳から64歳までの、6カ月以上自宅にひきこもる「広義のひきこもり(ふだんは家にいるが、自分の趣味に関する用事のときだけ外出する『準ひきこもり』を含む)」は、推計で61.3万人とされている。これは、15歳から39歳までの、同じ定義によるひきこもりの推計数を上回っている。

本書『中高年ひきこもり―社会問題を背負わされた人たち―』では、上記をはじめとする各種調査や、ひきこもり当事者や支援団体・当事者団体へのインタビューなどから、中高年ひきこもりのリアルな実態を明らかにしている。その上で、当事者への理解や支援のあり方を論じる著者は、NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表を務める。

■強い自責の念に苦しむ当事者たち

冒頭のように問いかけたのは、本書によれば、中高年ひきこもり当事者たちが、「役に立たない人間」「問題解決できないやつ」などと"内なる批判"をする傾向にあるからだ。中高年がひきこもる原因で多いのが職場でのいじめ、パワハラといった人間関係のトラブルや過重労働。一般の多くの人が思いがちな「怠け」などでは決してない。それなのに本人たちは強い自責の念に苦しんでいる。

職場での人間関係のトラブルは、誰でも当事者になる可能性がある。さまざまな理由で、自分の価値に疑問を感じることも、時にはあるだろう。つまり、多くの人が、いつひきこもりになってもおかしくないのだ。

そのように認識し、私たちが人ごとではなく「自分事」としてひきこもり問題を捉えることが、解決の第一歩になるに違いない。

無理やり外に引きずり出したり、就労させることが支援ではないと著者は強調する。大事なのは、当事者の苦しみや悩みを理解し、まず受け入れること。そして、当事者同士の交流や情報交換を側面から支援することだという。実際に当事者会は各地に存在するので、ボランティアで手伝う、場所を提供する、寄付をする――できることはいろいろある。

社会全体が「弱さ」を排除せず、多様性の一つとして受け入れる寛容さを備えるようになっていけば、きっとこの問題は改善されるはずだ。本書は、そのガイドブックになるのではないか。

今回の評者 = 吉川清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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