ひらめきブックレビュー

「花嫁の手紙」が手本 プレゼンの成否は物語が決める 『エモいプレゼン』

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以前、社内の他部署に、ユーザーの製品利用状況の調査を依頼するためにプレゼンを行ったことがある。だがいつまで経っても調査結果を得ることができず、最終的には上司経由で改めて依頼することになってしまった。一生懸命説明しても「聞き手が動いてくれない」というのはプレゼンによくある悩みの一つではないだろうか。

思い当たるふしがあるなら、プレゼンに「エモ」が足りなかったせいかもしれない。本書『エモいプレゼン』は、「エモい」=聞き手の感情を揺さぶるプレゼンをするためのノウハウを解説している。なぜプレゼンに感情への働きかけが必要なのか。その理由は、聞き手とはロジックではなく、感情(エモーション)で納得するからだ。聞き手は「好きか嫌いか」「ワクワクするかしないか」といった感覚で、プレゼンを受け取っている。聞き手に確実に言葉を届け、納得してもらうためにも、プレゼンには「エモい」演出が大切だと説く。

著者の松永俊彦氏はプレゼンコーチ。塾教師として効果的なプレゼンを長年研究し、それを一般企業向けに応用したセミナーを開催しているプレゼンの専門家だ。

■共感を呼ぶ「ストーリー」の作り方とは

感情を揺さぶるプレゼンのお手本は、「花嫁の手紙」だという。結婚式の山場で、花嫁が両親への感謝を読み上げるあのイベントには、以下の重要な3つの要素が含まれている。

(1)聞き手の心の準備
(2)ストーリーの伝達
(3)感情的な伝え方

話し手が「両親への感謝」を伝えようとしていることは明白だ。聞き手がスピーチの目的をはっきり理解していることは、内容に集中してもらうための大前提となる。物語を入れることも欠かせない。昔父親から叱られたときのことなど、具体的なエピソードを入れることで、聞き手は具体的なイメージを頭の中で作り出し、その時の雰囲気を感じることができる。そして話し手が意識的に感情的な話し方をすることも重要だ。涙ぐんだり言葉に詰まったり、リアルな感情を隠さずに表現すれば、聞き手に感情のざわめきを伝えることができる。

とくに物語の力は大きい。例として挙げられているのが昔話の「桃太郎」だ。桃太郎と聞けば誰でもピンとくるが、もし教科書で暗記しただけの歴史上の人物、仮に「中大兄皇子」と聞かれたらどうか。関連エピソードを思い出せる人はわずかではないか。人は物語があると記憶に残りやすく、内容にひきつけられやすい。また物語があることで想像力が刺激され、自然と感動が呼び起こされるという。

つまり、成功するプレゼンのコツは、結婚式の花嫁と参加者のように、話し手と聞き手が同じイメージ、そして感動を共有できるような環境を作り上げることだ。話したいことをロジカルに伝えるためのノウハウ本は多い。しかし、聞き手に注目し、聞き手の感動を話し手と一緒に作り上げることで行動を促すという本書の視点はとても斬新だ。

他にも、聞き手に主体的に参加させる質問方法や話し手の表情の作り方など、プレゼンを魅力的にするコツがたくさん紹介されている。せっかくのプレゼンを独りよがりで終わらせないために、ぜひ参考にしてほしい。

今回の評者=高野裕一
情報工場エディター。医療機器メーカーで長期戦略立案に携わる傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。長野県出身。信州大学卒。

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