若者研究の第一人者・原田曜平氏が主催する、高校生・大学生のプレゼン大会で挙がった今どきの商品から若者ヒットの理由を探る本連載。今回は、頭のもみほぐし専門店「悟空のきもち」の運営会社・ゴールデンフィールドが企画・開発し、予約が殺到している「睡眠用うどん」を取り上げる。見た目がまさに“ざるうどん”のような掛け布団。この斬新な寝具が、なぜ大ヒットしているのか?

「睡眠用うどん」はジョークかと思いきや、実は非常に機能的
「睡眠用うどん」はジョークかと思いきや、実は非常に機能的

脱マーケの直感的ものづくり

 奇想天外の「睡眠用うどん」。そのアイデアが生まれたのは、2018年夏の暑いさなかのこと。頭をもみほぐす独自の手業で誰もが寝落ちするという「絶頂睡眠」を売りにするヘッドスパ専門店「悟空のきもち」の女性施術者が、昼食で頼んだざるうどんを前に、何気なくつぶやいた一言がきっかけだった。

 「セイロに並んだざるうどんの中で寝たい……」

 この言葉に同席した一同が反応。「その場で、セイロの上にうどんを縦横に並べて、寝具の形を作ってみた。面白さと、完成度の高さに話が盛り上がり、皆で“これは売れる”と確信した」(ゴールデンフィールドの商品担当者)という。

食事中、実際にざるうどんを縦横に敷き詰めてみたという
食事中、実際にざるうどんを縦横に敷き詰めてみたという
完成した睡眠用うどん。縦に8本の“うどん”を並べ、両端をつないでいる。右端部分には枕も付く。すべての“うどん”は取り外し可能
完成した睡眠用うどん。縦に8本の“うどん”を並べ、両端をつないでいる。右端部分には枕も付く。すべての“うどん”は取り外し可能

 キャンセル待ちが実に50万人に達するという人気店、悟空のきもちを運営する同社には、以前から多くの寝具メーカーが布団の共同開発を打診していた。だが、一般的な布団の形にとらわれるつもりは毛頭ない。もし出すのであれば、世の中があっと驚くような寝具と決めていた。そうした秘めたる思いがあったからこそ、“うどん”の寝具化という奇策が実現に向けて動き始めたのだ。

 通常、面白がってうどんのような布団を発案したとしても、できるだけ世に受け入れられるようにと、最近の布団のトレンドを調査し、見た目や感触を寄せていくのが常識だろう。だが、同社はそんなマーケティングの常道を一切無視。こともあろうか、「うどん」に寄せていくことにこだわった。「そうやって既成概念を一掃し、独自の柱をひたすら追求するのが我々のやり方。だから旧来のマーケティングは不要であり、むしろ邪魔。同じやり方では当たり前のものしかできない」(ゴールデンフィールド)。例えば、おいしいうどんの条件である「コシ」を布団でどう表現するかを真剣に考えた。出した答えは、天然の羽毛に人工羽毛をブレンドすること。「ちょっと固めのコシを出した」(同社)という。

 そして、実はうどんに近づけたことで、従来の布団にはない利点がいくつも見つかった。人は深部体温と呼ばれる体内の熱を、手足からの熱放散によって下げる過程で眠気を感じ、眠りにつくといわれる。寝る前に手足が温かくなるのはそのためだ。うどん形状の布団であれば、隙間から手足を出すなどして熱放散をするのに最適な寝姿を取れる。そして就寝後も、寝返りするたびにうどんの隙間が開き、こもった熱を外に逃がす。寝苦しくて布団をはいでしまい、朝方に体が冷えて起きるといったことも回避しやすいわけだ。あるいは、うどんの隙間から手を出してスマホを操作することもできるので、肩を冷やさないという利点もある。

“うどん”の隙間から手を出し、スマホを操作できる
“うどん”の隙間から手を出し、スマホを操作できる

 さらにメリットを発揮するのが冬だ。従来の羽毛布団が温かいのは、中身の羽毛によってできる空間に体温が伝わり、その熱がキープされるため。つまり、空気が入る空間がより多ければ温かさも増す。その点、睡眠用うどんはすかすかの隙間があり、上に1枚毛布を掛けることで、温められた空気を羽毛布団以上に大量に保持できるという。「こうした驚きのメリットがいくつもあることが判明。うどんは理にかなっていることが“後付け”で分かっていった」(ゴールデンフィールド)。

 こうして開発された睡眠用うどんは、1万6800円(税別)の値付けで、19年8月初めに予約サイトを立ち上げると、SNSで瞬く間に話題が拡散。僅か1日で5000人からの予約が殺到し、即日で初回生産分が完売する騒ぎになった。そして発売1カ月の受注は約1万4000個に達し、売り上げは2億3000万円を突破。12月からは生産能力を当初の20倍規模の月産1万個体制に増強し、現時点(12月5日)では受注数が約1万8500個、売り上げは約3億1100万円に上り、寝具業界に“うどん旋風”を巻き起こしている。

【ココが響いています from原田氏の若者プレゼン大会】
早稲田大学 磯部卓治さん、上智大学 富山連太郎さん
 睡眠用うどんの隙間から足を出してむくみを防いだり、“うどん”の部分にしがみついて抱き枕にしたりと便利に使えそう。隙間から手を出して、スマホを操作できる点も若者が共感できるポイント。布団の固定概念を覆すデザインが話題になりやすく、若年層を中心にネタとしてTwitterなどでリツイート、拡散しやすかったことも、話題が爆発的に広がった理由だと思います。

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