ひらめきブックレビュー

親子で幸せを感じる 「ほったらかし保育」の極意とは 『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』

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驚くほど細やかな観察力、言葉への豊かな感受性、旺盛な好奇心。2歳の孫の姿を見ていると、生命の輝きや神秘をふと感じることがある。かつて母として夢中で子育てしていた頃には味わえなかったものだ。

本書『92歳の現役保育士が伝えたい親子で幸せになる子育て』は、そんな子どもの限りない可能性に寄せる深い共感と信頼に満ちた子育て指南書。栃木県足利市にある私立保育園「小俣幼児生活団」の主任保育士である大川繁子氏が、60年にわたる経験から保育に関わるすべての人へ、温かいメッセージを送っている。著者自身、3人の子育てや保育で悩み、失敗してきた経験があればこそ、親子双方の気持ちに寄り添えるのだという。

■「ほったらかし保育」の真意とは

子どもが子どもとは思えないくらい自立することから、「奇跡の保育園」とも称賛される小俣幼児生活団。その保育のテーマはモンテッソーリ教育に基づく「自由と責任」だ。0歳から4歳児までは、園児は自分のやりたいことをして一日を過ごす。5歳児も皆と同じことをする時間は1時間だけだ。「これがしたい!」という自発的な欲求を大切な成長の段階と捉え、自ら選んだことに没頭させる。この経験の積み重ねが、のちに本当に進みたい道を切り開く力になると著者は語っている。

また、保育士は園児に指示をしない。「お着替えをしてくれませんか?」とお願いするのだという。子どもが自分で考える余地を残すためで、決定権は子どもにある。こうした態度の根底にあるのは、大人と子どもは対等な存在だとするアドラー心理学の考えだ。「いい子だね」というような、目上の者が目下の者にするような評価の言葉も慎み、保育者のうれしい気持ちや感謝を子どもに伝えるのだという。

幼児をもつ親ならば、トイレトレーニングに悩む人も多いだろう。著者に言わせれば、オムツは外れる時には外れる。子育ては大人の正解を押しつける「しつけ」ではなく、子どもの自立のお手伝いだと説く。そんなふうに考えていくと、親の悩みとは「こうあらねば」という思い込みから発していると気づかされる。

■人生から「~すべきだ」を取り除く

「自由と責任」ある人生を送ってほしいという著者の願いは、子どもだけでなく、母親たちへのメッセージでもある。「母だから~すべきだ」という思いを手放せば、子育ても人生ももっと楽しくなるというのだ。

私自身を振り返っても、親として安心し、満足したいという願いや義務感が、ときに自分も娘も縛り、苦しめていた。かつて、大学に入って徐々に自分の人生を踏み出した娘がこう言ったことを思い出す。「ママも、もっと自分の好きなことを大切にしてね」。世間の評価ではなく自分が心から求めることに向かう勇気が、自身も周りも幸せにしていくのだ。

自分に備わる本来の力を存分に発揮し、それに伴う責任を持てる子どもであれば、どんな世の中でも幸せに生き抜いていける――。著者のメッセージは、子育てに留まらない。生涯を通じて、人間が幸せに生きていくためのヒントに満ちている。

今回の評者 = 丸洋子
情報工場エディター。海外経験を生かし自宅で英語を教えながら、美術館で対話型鑑賞法のガイドを務める。ビジネスパーソンにひらめきを与える書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームの一員。慶大卒。

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