「笑わない男」が持つ魅力 言葉より伝わる表情の威力

こしらえたような「つくり笑顔」は逆効果

ラジオ局の新人アナウンサー時代に苦労したのも「言葉以外の表情で伝える技術」だった。入社当時、仕事のメインは放送ではなく、百貨店屋上でのイベントの司会だった。人前が苦手な私は、緊張のあまり、怒ったような表情をしていたらしい。

先輩からはこう叱られた。「お前、暗い。もっと楽しそうな顔ができないの? 顔の表情はお前の責任だ」。その後、「様々な感情を、言葉だけでなく、顔の表情で伝える技」を獲得するまでには、結構な苦労と訓練を必要とした。

単に「笑えばよい」というものではない。笑顔を見せる場面やタイミングによってはつくり笑いだと受け止められがちだ。「バカにしている」「なめている」と、ネガティブな印象を与えてしまうことだってある。「笑う」「笑わない」の使いこなしには、思ったよりも時間と手間がかかるらしい。

今年も忘年会の季節がやってきた。同じ故郷で、同じ学び舎(や)で、同じ職場で過ごした、懐かしい顔が久々に会って近況を伝えあい、昔話で盛り上がる。ところがまもなく、男女で微妙な差が生まれてくる。

女性陣は周囲の状況をこまめにチェック。男性参加者から何度も聞かされた昔話にも上手に反応し、時には大笑いしてくれる。その間も音楽のボリューム調整や暖房の効き具合などに抜かりはない。女性同士が目と目を交わすコミュニケーションで、気配りを働かせている。彼女たちの笑顔の気働き抜きでは、こういう席は成立しにくい。

最後に集合写真を撮ってお開きとなるが、後ほど送られてくる写真を見れば彼女たちはとびっきりの笑顔なのに対し、男性参加者の多くは楽しいのか、悲しいのか判然としない、微妙な空気を漂わせている。「女性のデフォルト(標準の状態)は笑顔、男性のデフォルトは無表情」と聞いたことがあるが、その通りだと感じる。

今年のヒーロー、稲垣選手は「笑わない男」だが、年齢を重ねた男性は次第に「笑えない男」になってしまったのかもしれない。「稲垣、笑った」のスクープが楽しみだ。

※「梶原しげるの「しゃべりテク」」は毎月第2、4木曜掲載です。次回は2019年12月26日の予定です。

梶原しげる 1950年生まれ。早稲田大学卒業後、文化放送のアナウンサーに。92年からフリー。司会業を中心に活躍中。東京成徳大学客員教授(心理学修士)。「日本語検定」審議委員。著書に「すべらない敬語」「まずは『ドジな話』をしなさい」など。

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