グローバルに売れる服を作るにはブランディングが必要
――大手アパレルやファストファッションの業績不振が目立ちます。欧米でも「服が売れない」と言われています。アパレルの市場は先細りを余儀なくされるのでしょうか。
柳井「僕は世界的にみたらアパレルは成長産業だと思っている。みんな先進国しかみていないですからね」
石津「まったく同感です。日本市場が厳しいのは、百貨店でものを売るという流通の仕組みがあるからです。百貨店で売るとなると価格は高くならざるを得ない。百貨店が厳しければアパレルも厳しくなる。ユニクロはまったく異なるシステムで服づくりをしているから同一視することはできません」
柳井「グローバルブランドにならないと生き残っていけません。アジアでは40億人の人口があり中産階級に育っていく。家や車を買う前にまずは服を買うのです。グローバルに売れる服を作るにはブランディングが必要で、そのためにうちはニューヨーク、パリ、ロンドンにグローバル旗艦店を置いている。世界の他の大手ブランド同様、世界中の情報を集めて日本的に解釈しなおして、日本人が考えた世界に通用する服とはどういうものか、考えて売っています」
――店舗を経由せずメーカーが直接消費者に商品を届けるD2Cが話題です。
柳井「注目はしていますが、まだ小売りの域を出ていません。服というのは当然のことながら基本的な知識や生産ノウハウがないといけない。デザインをし、素材を選択して、コーディネーションと全体のバランスもみる。そこまでの能力を持った企業があったらすごいと思いますけど、いまのD2Cはまだ小売業のノウハウだけ。作る方がよっぽど難しいのです」
「ライフウエアマガジン」、ライフスタイルとしての服発信
――情報発信という部分でもVANはパイオニアでした。米東海岸の名門校(アイビーリーグ)の学生の日常着を紹介した1965年発刊の写真集「TAKE IVY」はアイビースタイルのバイブルでした。海外でも翻訳され、いまなお人気です。
石津「TAKE IVYは僕がスタッフ7人を連れて行き撮影しました。本当の目的は写真集じゃなくて、ファッションも含めた大学生のライフスタイルの映画を撮ることでした。映画といっても一般に公開するものではなくて、VANの店にお客さんを集めて特別に上映するためのもの。撮影部隊一行に婦人画報社のカメラマンがいて傍らで撮影した写真をまとめた。映像を念頭においた写真集なのですが、大ブームとなりました」
――ユニクロは19年8月にフリー誌「ライフウエアマガジン」を創刊しました。ファッション誌風にユニクロの商品を紹介するものですが、作ったのが18年に入社した木下孝浩・グループ上席執行役員。木下さんが元「ポパイ」編集長だったことで話題を呼びました。
柳井「実は木下はTAKE IVYの大ファン。今回のフリー雑誌は木下の美意識が生かされていて、バランスがいい仕上がりだと思っています。彼がポパイの編集長だったとき、並み居る一流ファッション誌を超えたと思いました。大方のファッション誌はタイアップ記事や広告が主体ですが、ポパイは自分たちで取材をして、自分たちで特集を考えることを大事にする。どの雑誌よりも上を行っていたと感じていました」
「今はモードからではなく、人々の暮らしから新しい着こなしが生まれてくる時代です。ですから(テニス選手の)フェデラーのような、ライフスタイルを表現できる人を登場させて、どんな服を着ているのかを発信しています。これからは年2回、グローバルで200万部近くを発行し、webでも展開します。すでに『スタイルヒント』という、着こなしを検索できるアプリと合わせて、新しい媒体に育てようと言っています」
石津「僕が当時アイビー校に目を向けたのは、学生の間で定番化している服には歴史があり、調べるには格好の材料だったから。学生の日常を撮影したから話題になった。雑誌でライフウエアを啓蒙するならば、ファッションに寄りすぎず、ファッションから一歩引くことが大事かなと思います。それと活字をあまり小さくしないことでしょうね(笑)」
(聞き手はMen's Fashion編集長 松本和佳)
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