デザインで進化させにくい定番 素材で進化させるしかない
――シンプルな定番は売り手が個性を発揮しにくい服でもあります。どのような進化が可能なのでしょうか。
石津「定番はデザインで進化させにくく、素材で進化させるしかない。ユニクロの機能の進化はとにかくすごいと感じています。きょうはいているユニクロのパンツはウールにみえる機能性素材を使っていて、一昨日洗濯機で洗ってそのままなんですけど、アイロンをかけなくてもきちんと折り目がついたまま。これも進化したからこそです」
柳井「たとえばボタンダウンのシャツでいえば、昔は(ワイシャツなどと同じ)ドレスシャツの一つとして認識されていました。でも今、ボタンダウンはカジュアルウエアとしての需要が主流なので、あえて洗いをかけてカジュアルな風合いを出しています。ジーンズをどこにでもはいていける、そんなカジュアルな時代になっているので、それに合わせた細部の工夫が必要になっているんです。あと、いま僕が着ているのはデザイナー、クリストフ・ルメールさんとのコラボ商品のカーディガンジャケットです。着ていて非常に楽ですし、人と会うときでもきちんとしてみえます。僕はこれがいまのジャケットだと思う」
――時代が変わるとアイテムの位置付けも変わって、オンとオフの境界も希薄になってくるわけですね。では、ライフウエアを続けてきたユニクロが考えるファッションとは何でしょうか。
柳井「時代を感じさせるものだと思います。我々が本当に目指しているのは『トゥデイズ・トラッド(今日風のトラッド)』なんです」
ライフウエアとは人々の生活を快適にする究極の普段着
――石津さんはユニクロの服にどんな印象を持っていますか。
石津「僕はユニクロの服をたくさん持っていて、着ることは多いですよ。ライフウエアという言葉にも共感します。自分の着方を考えると、ユニクロは人の目を意識した服ではなく、体で感じる服ですね」
柳井「ライフウエアとは人々の生活を快適にする究極の普段着という考え方です。お客さまのライフスタイルに沿って服装の道具を売る、という、服に対する一番進んだ考え方なんじゃないかな、と思っています」
――80年代はDCブランドや海外ブランドの台頭で「高い服はいい服」「ブランドで自己表現する」という価値観がありました。いまはどう変わったのでしょうか。
柳井「三井住友銀行がドレスコードを廃止し、ジーンズを解禁しました。服はこれまで会社や仕事、社会の階層みたいなものを表すものでした。それが個人を表現するものに変わった。服の組み合わせで個性を表出する時代には全身アルマーニという人はいなくなる」
――2020年からは職場のカジュアル化が加速しそうです。ビッグチャンス到来とお考えですか。
柳井「ビッグチャンスというよりは、世界で一番コンサバティブな日本の銀行が何を着てもいいとなり、カジュアルの時代になったんだ、と実感します。ただ、仕事で人に会うようなときには、人に会うためのカジュアルを着ないとまずいでしょう。服装というのは自分の着心地がいいことと相手に合わせること。2つの要素がないとだめなんです」
――その「人に会うためのカジュアル」、いわば「よそ行きのカジュアル」の代表例が、今着ているカーディガンジャケットというわけですね。
石津「僕の場合は下着だとか靴下だとか外に出す必要のない衣類はほとんどユニクロです。私はこれを着ています、と主張したいときはユニクロではないものを着る。ファッションというのは人の目を意識して着るものに使われる言葉。人の目よりも自分にとっていい、という物差しで選ぶものが定番です。ユニクロは定番で、だれでも着ることができる。これが強み」

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