言葉の「誤用」は大罪か ずれを認める余裕を持とう

辞書の定義だけでは、言葉遣いの「正解」は決めにくい。 写真はイメージ =PIXTA
辞書の定義だけでは、言葉遣いの「正解」は決めにくい。 写真はイメージ =PIXTA

朝日新聞の投稿欄に、21歳の女子大学生の「私は人生の『正解』が欲しい」という声が載っていました。趣旨をピックアップすればこんな感じです。「高校までは何に対しても正解があった。教科書の問題(についての正解)が解答ページに、取るべき行動は校則に(正解が)。ところが大学や社会に出ると、突然、正解のない問題ばかりが降りかかってくる。私はこの先どこへ向かって歩けばいいの?(梶原の要約)」。この問いかけはなかなか示唆に富んでいます。

社会との接点を持ち始めたとたん、「正解と不正解の境界があいまいになる」「正解と言われたものを無条件に信じられなくなる」。こんな若者の不安が率直に述べられています。そんな彼女もやがては「世の中には○か×か、簡単に正解を求められることばかりではない」と知ることになるのでしょう。

さてここからが本論です。インターネット上には「言葉の意味の正誤を2択で問うクイズ」がいくつもアップされています。「読んで得するもの」から「読まないほうがいいもの」まで、コンテンツのクオリティーも様々です。

「読むに値しないもの」の特徴は「言葉の揺れ(変化)」を無視して、現状に配慮しないまま、「答えはこれ!」と決めつける類いです。なかには「明らかに誤解」というケースも見受けられます。言葉への書き手の関心が低く、「言葉ネタはページビューが稼げるらしいから」程度の動機でネット上のネタを適当にピックアップしているというケースさえありそうな玉石混交ぶりです。

国語辞典に頼りきるのは危うい

たとえばネット上でしばしば目にするクイズには、こういうタイプがあります。

Q 「爆笑」の意味として正しいのはどちら?
A:大勢が一斉に笑う(人数のほうに重点がある)
B:一人で大笑いする(笑いの強さを重視している)

この出題は本来、2択クイズにはなじまないものです。なぜなら、A、B、両方とも間違いとは言い切れないからです。

『広辞苑』最新版では「はじけるように大声で笑うこと」とあり、大勢で笑うか、一人で笑うかの区別には一切、言及していません。『三省堂国語辞典』には「吹き出すように大きく笑うこと」「笑う人数が問題にされることが多いが、もともと、何人でも良い」とあります。

『明鏡国語辞典』には「大勢が声を上げて一斉に笑うこと」と記した直後に「近年、一人で大声を上げて笑う場合にもいう」と説明しています。『三省堂現代新国語辞典』(若者向け辞書)も「吹き出すように大声で笑うこと」と説明していて、一人か、大勢かへの言及はありません。

『大辞泉』では「大勢の人がどっと笑うこと」に加え、「一人、または数人が、大声でわっと笑うことの意味でも用いられる」としています。少なくとも「大勢でどっと笑う」だけを「正解」とする現代の辞書はあまり見かけません。辞書からいえば、「2019年時点で『一人で爆笑』は間違い」と決めつけるのは難しそうです。辞書を判断基準にする限り、正解は定まらないようです。

つまり、このクイズは出題者が独自に「正解」を決めていることになります。これは「出題者はどちらを正解と考えているでしょう」と尋ねるクイズと同じであり、言葉に関する理解度を問うクイズになっていないといえるでしょう。

一方で「辞書が推奨する言い方だけが『唯一無二の正解』」と決めつける態度も狭量すぎる」といわれるかもしれません。「辞書的には『正解』であっても、実際に世間では別の意味で使われている」というケースもあるからです。