ひらめきブックレビュー

ドイツに学ぶ最強の交渉術 「役割交換」の訓練法とは 『望み通りの返事を引き出す ドイツ式交渉術』

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先日、外国人経営者から印象深いことを言われた。「日本人は交渉の場面で、あと一歩の踏み込みが足りない。交渉を通じてお互いが理解できる面もあるのに」というものだ。私自身は交渉に苦手意識があり、その根底には「交渉をすると相手との関係が悪くなるかもしれない」という考え方があった。仮に交渉により、自分が得をしたとしても、相手が損をしてしまえば、長期的に良好な関係を築くのは難しいとも考えていた。

しかし、本書『望み通りの返事を引き出す ドイツ式交渉術』(安原実津訳)によると交渉は「対立ではなく信頼」だという。交渉とは、望んでいることを妥協することなく、自分も相手も納得できる結果を導き出すもの、というのだ。

著者のジャック・ナシャー氏は、リーダーシップ・組織論を専門とするミュンヘン・ビジネススクールの教授。ドイツ語圏における交渉のエキスパートとしても知られ、アドバイザリー業務やトレーニングの提供も行っている。

■1つのオレンジをどう分けるか

著者によると、交渉には「分配型交渉」と「統合型交渉」の2つがあるという。分配型交渉は「ひとつのものをどう分け合うか」で、自分の得は相手の損となる。一方、統合型交渉は「できるだけ多くの関心事を満たそうとする」ことであり、共に利益を得られる可能性がある。著者いわく交渉とは、分配型交渉を統合型交渉に変えることである。

分かりやすい例として、こんなエピソードがある。ある1つのオレンジを巡って姉妹がけんかしている。そこで親はオレンジを半分に切って半分ずつ姉妹に渡してしまう。ところが、これではどちらも不満が残る。実は姉は実を搾ってジュースにしたいと考えており、妹はケーキを焼くために皮を使いたかったのだ。そこで姉に実を、妹に皮を、という交渉ができれば双方が満足する結果が導き出せる。

鍵となるのは「オレンジが欲しい」という要求がどのような関心事にもとづいているか把握することだ。ビジネスの場合には価格交渉が大事だと思いがちだが、本当の関心事は価格の背後に隠されている場合が多いのだ。

■交渉は相手を理解する良い機会

ではお互いの本当の関心事を理解するためにはどうするか。例えば、「役割交換」も有効だ。これは意図的に相手と役割を交換することで、相手の立場を理解し、主張も想定することができるというもの。

昇進がかかった面談前などに、友人を上司に見立てて話をする。その後、今度は自分が上司役になり、友人と対話をする。このとき友人には先ほど自分が話した内容を繰り返してもらうのだ。こうすることで、ひとりよがりな主張を改め、上司としての視点や懸案事項に気づくことができるという。

本書ではビジネスにおける交渉の要点の解説はもちろん、日常生活における交渉のコツも紹介している。考えてみると、日常生活は交渉の連続だ。本書を参考に、交渉を相手を理解する機会と捉えてみてはいかがだろうか。

今回の評者 = 倉澤順兵
情報工場エディター。大手製造業を対象とした勉強会のプロデューサーとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。東京都出身。早大卒。

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