――慎重意見もあると聞きますが。

異論が出ているのは事実です。記述式では50万人規模の受験生の解答を、短時間で公平に採点するのは至難の業です。国語では必要なキーワードが含まれていれば正解とする、との見方もあり、本当に思考力などを評価できるのか疑問視されています。

英語の民間試験は入学者選抜とは異なる目的で個々に開発されたものです。その結果を同列に扱って問題はないのか、都市部と地方で受験機会確保に差が出ないか、受験料負担が大きくないか、といった指摘が聞かれます。記述式問題や英語の民間試験の結果を合否判定には使わない大学も相次いでいます。

高校の対応も割れています。全国高等学校長協会は英語の民間試験は「活用を延期し制度を見直す」よう国に要望しましたが、私立高校の団体は「延期せずに円滑な実施」を求めています。

――改革はどうして必要なのですか。

背景には社会情勢の大きな変化があります。少子高齢化が加速する中で、国際化、情報化など急速な変化が進み、先を見通すことが困難な時代です。激動の時代には「自ら課題を発見し、他者と協力して解決していく資質や能力」が求められます。文科省は今回の改革を、高校教育・大学教育・大学入試を一体的に変える「高大接続改革」と位置づけています。「大学入試が旧態依然で高校の教育改革が進まない」との不満があるからです。高校の学習指導要領改訂に合わせ、大学入試も変えようと考えました。

大学入試の歴史は制度変更の歴史です。その過程では同じような議論が繰り返されました。共通一次試験導入時の旧文部省資料には「現在の入試は受験技術的学習を強い、高校以下の教育に大きな影響」「適切な出題で高校の正常な発展に寄与」などの文言が並びますが、これらは今回も議論された論点です。今回も議論になった実施時期の前倒しは、共通一次試験導入時にも大論争になりました。

――今後も改革は続くことになりますか?

20年度で区切り、とはいきません。新しい学習指導要領で学ぶ高校生は24年度に大学を受験します。その際には見直しが必要になります。共通テストの英語と民間試験の関係の整理なども課題です。

大学入試制度が時代遅れになっている側面は否めません。象徴が「1点刻み選抜」でしょう。今回の論議は「明治以来の大改革」と大上段に構えて始まりましたが、小規模な見直しに終始しては受験生が振り回されるだけです。文科省など関係者には、十分な議論と受験生の不安を取り除く配慮が求められます。

ちょっとウンチク

理想追及、ゴールな改革

共通一次試験の導入に関わった元文部省高官は「大学入試改革は間欠泉のようなもの。誰もが納得する結果は得られず、一定期間がたつと噴き出てくる」という。

ただ、入試改革で試行錯誤が続くのは日本だけではない。SATやACTと呼ばれる共通テストやエッセーを活用する米国型入試は、日本のお手本だったが、船守美穂・国立情報学研究所准教授によると、これらを任意提出にして合否判断に使わない大学が増えている。受験費用の問題やマイノリティーへの配慮等がある。

今後も理想を求めたゴールなき挑戦が、国や時代を超えて続きそうだ。(編集委員 横山晋一郎)

■今回のニッキィ
河野美香さん 会社の昼休みを利用してスポーツジムに通い始めた。ランニングを中心に20分程度汗を流す。「運動は好きではなかったけど、リフレッシュできて午後は仕事に集中できます」
本多佐知さん ネット銀行で契約社員として働きながら、両親の介護にも頑張っている。長男は高校2年生。「大学受験はまさに自分事。息子とは将来の進路などについても話し合っています」

[日本経済新聞夕刊 2019年10月28日付]

「ニッキィの大疑問」は原則月曜掲載です。

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