ひらめきブックレビュー

名門校ではご法度 親の勘違いが生む「経験泥棒」とは 『21世紀の「男の子」の親たちへ』

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実は私自身、21世紀を生きていく「男の子」の親だ。息子は2歳に満たないが、走り回ったり階段を上ったりして動き回っているので、常にヒヤヒヤしている。危なっかしくてすぐに抱きかかえたくなるが、手助けすることは「経験泥棒」なのかもしれない。

経験泥棒とは本書『21世紀の「男の子」の親たちへ』にある言葉だ。本書は開成、灘、麻布といった名門男子校のベテラン教員らの見解を引用しながら、未来を担う子どもたちへの親の向き合い方を提案している。著者のおおたとしまさ氏はリクルートから独立し、育児誌や教育誌に関わってきた教育ジャーナリスト。なお本書は2018年に出版された『開成・灘・麻布・東大寺・武蔵は転ばせて伸ばす』(祥伝社)を基に再構成したものだ。

■失敗という経験をさせよ

開成中学校・高等学校の葛西太郎教諭は、保護者によく「経験泥棒だけはしないでください」と伝えているという。失敗しそうだからと先回りして、子どもが得るはずだった経験を奪ってはいけないといった意味だ。例えば朝は子どもを起こさなくていい。「なんで起こしてくれないのか」と言わせて「あなたが悪いんでしょ」と伝える。致命的にならない限り、親は子どもに「そのまま失敗させる」ことが大事だという。

なぜなら、失敗から学ぶ力こそが、人間の秀でた能力だからだ。目の前の状況が変化し、これまでのやり方が通用しなくなったときに、その都度やり方を変え、試行錯誤し、最終的にうまくいく方法を見つける。そうやって進化してきたのが人類なのである。著者は「事後的に正解をつくり出す力」とも言っているが、つまずいてもただでは起きない力こそ、予測不能な時代を生き抜く鍵となるのだ。

そして、試行錯誤し、正解をつくり出すためには子ども自身が決断することが大前提。自分で決めた選択であれば、「正解」が与えられないときでも諦めずに前に進もうと思えるからだ。

■子育ては「里山」の手入れ

自ら決断したり、正解をつくり出す力をどのように育めばいいのか。本書によると残念ながら、親ができることはそう多くない。とにかく親が子どもに関わり過ぎてはいけない、と著者は説く。

親の子どもへのスタンスとしては、「里山」くらいがちょうどよいそうだ。基本は自然のなすがままにしておきながら、ときどき最低限の手入れをする程度。子どもの成長に不完全な部分があったとしても、木がまっすぐには伸びないように「自然なこと」とおおらかに受け止めていくことが大切なのだ。

長年教育現場に携わった教師のメッセージには説得力があり、身につまされる。「男の子」と銘打っているが、男の子特有の習性を説いているわけではない。むしろこれまでの社会的な立場の違いを踏まえつつ、男女関係なく個性を発揮する社会のために親世代はどうふるまうのか、という思いに貫かれている。

今回の評者 = 平昌彦
「ひらめき」や「セレンディピティ」を提供し、8万人以上のビジネスパーソンに利用されている書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の編集企画部所属。これまでに編集者やライターとして関わってきたメディアは60以上。高いIQ(知能指数)を持つ人たちの団体「MENSA」(メンサ)会員。

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