プロクター&ギャンブル(P&G)は「Consumer is Boss」を掲げる。P&G社員のボスは上司や株主ではなく、消費者であるという価値観だ。消費者理解はマーケターにとって仕事の始まりである。第3回はP&Gでの経験を基に生み出した、インサイトの発見から施策に落とし込むための3Dフレームワークを紹介する。

柔軟剤の「レノア」はファブリーズと香水という、香りにまつわる他のカテゴリーから得たインサイトに基づいて開発された
柔軟剤の「レノア」はファブリーズと香水という、香りにまつわる他のカテゴリーから得たインサイトに基づいて開発された

 P&Gで学ぶ価値観はマーケティング部門だけではなく、営業やファイナンス、研究開発や工場で働く社員まで徹底されている。工場見学に行ったとき、インターネット上の消費者の生の声をソーシャル・リスニング・ツールを使ってリアルタイムに収集・分析し、改善点を見つけては工場のラインを改善していた。このことを知ったときには、自社のことながら非常に誇りに思ったのを昨日のように覚えている。

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)では、「Consumer is Boss」という価値観がマーケティング、営業、ファイナンスとあらゆる部門で働く社員に徹底して教え込まれている
プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)では、「Consumer is Boss」という価値観がマーケティング、営業、ファイナンスとあらゆる部門で働く社員に徹底して教え込まれている

 あらゆる部署で「消費者がボスである」という価値観の徹底は経営上、特に部署を超えた意思決定にも非常に効率的に働く。会社全体で同じ価値観が共有されることで、いわゆる部署間での意見のすれ違いはほとんどなくなる。たとえKPI(重要業績評価指標)が部署によって異なったとしても、最終的には「消費者にとって本当に意味があるのか」という共通の視点・消費者理解をベースに議論がなされるため、スムーズな意思合意に到達できる。

 そのためのビジネスプロセスも用意されている。例えば、新商品開発やマーケティングのプロセスにおいて経営層に提出する戦略立案書のひな型は、冒頭にターゲット層や消費者のインサイトを明記するように設計されている。こうした消費者理解をベースにした仕組み作りこそが、P&Gの経営論の1つの核であると言っても過言ではないと思う。

 180年以上そのような価値観を持ち続けている会社故に、消費者理解について、日々世界中のP&Gでその方法が研究されている。前回お話ししたビジュアルを使った手法もその1つである(関連記事『Instagramのインサイト活用法 消費者の無意識の決断を理解』)。これこそが消費者に価値を生み出す根幹と位置付けられているからであり、P&Gにとっては社員のDNAになっている。

 マーケティング部署とは別に、消費者市場戦略本部という独立した部署を作るほどである。著者も同本部に所属していた。その役割は消費者理解のプロとしてマーケティング戦略に落としこめるインサイトの発見と戦略骨子の立案、経営会議などでの消費者の声の代弁、そして消費者理解と数学知識を基に新商品を出す際の売り上げ需要予測と多岐にわたる。

 消費者の理解を経営指標に落とすことで消費者ニーズと事業を橋渡しするわけである。この数学モデルについてはUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)をV字回復させた森岡毅氏と消費者市場戦略本部の大先輩である今西聖貴氏の共著『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』(KADOKAWA)に詳しく書かれているため、ここでは詳細を省くことにする。

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