ひらめきブックレビュー

巨額マネーが社会課題を解決 ESGは日本に根付くか 『サステナブルファイナンスの時代』

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地球温暖化や子どもの貧困など、環境問題や格差社会が昨今問題となっている。これからはビジネスにおいても社会課題を考慮する必要があるのではないか――。半世紀前であればきれいごとに聞こえたかもしれない考え方が、当たり前となった時代を私たちは生きている。持続可能性やSDGs(持続可能な開発目標)という言葉も定着してきた感がある。

社会課題への対応は政府や自治体が公的資金で担うべきだ、という考え方もあるだろう。だが、日本に限らず先進諸国の国家財政は逼迫しており限界がある。国連の試算によればSDGsの達成のためには毎年5兆~7兆ドルという規模の資金が必要とも想定されている中で、民間資金の導入は避けて通れない。

とは言っても、「ESG債」なる債券にはなじみの薄い方が大半だろう。環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)に関する活動に資金を回す目的で発行される債券をいい、近年発行額が増加しているという。

本書『サステナブルファイナンスの時代』は、ESG債市場の発展のために野村資本市場研究所が研究会を立ち上げ、1年間にわたって議論した内容をまとめたもの。規制の動きや発行状況などの入門的な内容から、一般の債券と比べた追加的な価値は何か、価格はどのように決定されるか、といった理論的な考察まで、幅広く論じている。

■社会に対して良いことをする価値

ESG債の種類には、環境改善効果を目的としたグリーンボンド、社会的課題への対処を目的としたソーシャルボンドなどがある。例えば東京都が発行している「東京グリーンボンド」は、年間200億円の資金を「スマートエネルギー都市づくり」「気候変動への適応」といった環境施策に使っている。道路の照明をLEDに替えたり、中小河川の整備などを行っているという。

東京グリーンボンドはドイツの調査機関に品質評価を受け「良好」と認められた本格的なESG債だ。ESG債では通常の債権のような信用格付けに加えて、国際資本市場協会(ICMA)が定めた原則にのっとり、外部評価を受けることが推奨されている。

問題は、投資家がどう受け止めるかだ。外部評価の「お墨付き」を得たからといって、返済の確度(信用力)が高まるわけではない。また、ESG債のラベルがあるからと言って、経済的リターンを犠牲にする投資家はいない。

ESG債のアピールポイントは、やはり社会的リターンだろう。投資家が「これだけ社会に貢献した」と実感できるように、投資したプロジェクトを通して生まれる非金銭的な価値、社会的な好影響を具体的に明示していくことが今後の重要テーマとなっている。

ESG課題を人任せにせず自ら解決していく、というのがESG債の発行元、投資家の共通感覚であるはず、と本書は説く。クールでドライな投資の世界に、「社会に対して良いことをする」ための資金の流れを作るにはどうすればいいか。熱い挑戦を感じる一冊だ。

今回の評者 = 戎橋昌之
情報工場エディター。元官僚で、現在は官公庁向けコンサルタントとして働く傍ら、8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」のエディターとしても活動。大阪府出身。東大卒。

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