ひらめきブックレビュー

地理で読み解く町の盛衰 移動革命が生む新しい観光地 『人生が変わるすごい「地理」』

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学生の頃に学んだ「地理」を覚えているだろうか。日本の県名や世界の国名を覚えたり、各地の人口や風土を面白く学びながらも、「これって何の役に立つのかな」とうっすら感じていた人もいるのではないか。

本書『人生が変わるすごい「地理」』で扱う地理は、暗記型で学んだ地理とはだいぶ印象が違う。「環境との因果応報」が地理(ちのことわり)。地理的な知見から人生に反映できる思考法を見いだそうというのが、「地理思考」だ。

■栃木市はなぜ取り残されていたのか

地理思考を身につけ、「自分ではどうしようもない環境との関わり方、人生の切りひらき方を学ぼう」と説く。「日本人ってなんだろう?」「『働く』という価値はどう変化したか?」など15のテーマを挙げながら、さまざまな事象を深掘りし解説している。著者の角田陽一郎氏は、TBSテレビ時代に「さんまのスーパーからくりTV」などを手がけた人物で、現在はバラエティープロデューサーとして活躍中。

地理思考は物事の背景にある情報を有機的に結びつけ、自分の知らないことを推測していくことだ。つまり過去の状況から、現在に応用できる答えを探す思考法である。

例えば、町の発展の経緯から「個性の価値」について考えることもできる。

栃木県栃木市には東京と東北を結ぶ大幹線である、JR東北本線が通っていない。利根川が流れ、長らく水運で栄えてきたため、陸運が発展しなかったという見方もある。大きな鉄道が通っていない栃木市は経済や文化の発展から取り残された。代わりに、東北本線が敷かれている小山市や宇都宮市が開発されていったのである。

■快適さよりも「個性」に価値

だが、20世紀末ごろから形勢が変わる。交通網の発展とともに都市開発された地方が、東京のコピーのようになって個性を失い、「素通り」されるようになっていった。「小東京」になり下がり、衰退の憂き目にあった地方の中で、栃木市は違った。発展から取り残されたために、かえって古きよき風情が残っていた。「小江戸」として人を引きつけ、観光地として知られる町となったのだ。

この栃木市の例から、著者は、高速移動が進化するこれからの時代、効率や利便性といった快適さよりも「個性」が価値になるとしている。それは町だけではない。個人が生き生きとするためにも、横並び、画一的に陥らずにとがった個性を持つことが大事だという。

他にも「FIFAクラブワールドカップ」のスポンサーから世界情勢を読み解くなど、さまざまな切り口で地理思考を繰り広げる。通底するのは目の前で起こっている出来事を、多角的に、俯瞰(ふかん)的に見ていこうとする姿勢だ。視点が硬直してきたと感じたら、本書を手に取ってみてはいかがだろうか。

今回の評者 = 安藤奈々
情報工場エディター。8万人超のビジネスパーソンに良質な「ひらめき」を提供する書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」編集部のエディター。早大卒。

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