ひらめきブックレビュー

ブラザー工業、富士フイルム… 本業転換で勝てる理由 『本業転換』

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幅広い年代に愛される娯楽の一つに「カラオケ」がある。街のカラオケ店に導入されている業務用通信カラオケ機器は、そのほとんどが第一興商のDAMか、エクシングのJOYSOUNDのどちらかだ。このうち、1992年にいち早く通信カラオケシステムを導入したエクシングの親会社をご存じだろうか。実はブラザー工業なのだ。

ブラザー工業といえば、おそらく40代以上の人にとっては「ミシンの会社」としてお馴染みだろう。それより若いと、パソコン用プリンターやファクス、コピーなどを一体化した複合機のイメージが強いかもしれない。

同社の創業(1934年)時点の本業はミシン・編み機だった。その後、タイプライター、さらにはファクスや小型複合機などに事業を多角化。ミシンや編み機の需要減に伴い本業をシフトしていった。

本書『本業転換』は副題が「既存事業に縛られた会社に未来はあるか」。ブラザー工業のように本業転換に成功した企業と、それに失敗し衰退した企業を比較。企業が環境変化に耐え、生き残るために必要なポイントを探る。

本書で比較事例に選ばれたのは以下の4ペア。左側が成功、右側が失敗企業だ。

 ・富士フイルムホールディングズ vs. イーストマン・コダック
 ・ブラザー工業 vs. シルバー精工
 ・日清紡ホールディングス vs. カネボウ
 ・JVCケンウッド vs. 山水電気

著者の手嶋友希氏は大手金融会社に勤務。早稲田大学大学院経営管理研究科の企業派遣生だった手嶋氏が修士論文で作成した事例研究をベースに、同研究科の山田英夫教授が再構成し加筆・修正したのが本書だ。

■既存事業が順調なうちに新事業をスタート

本業転換には「どの事業を選ぶか(What)」と「新事業の開始時期(When)」が重要だという。どの成功企業も、本業で培った技術やノウハウを生かせる事業領域(What)を、本業がまだ順調で企業としての体力があるうちに(When)、先を見越して開始している。

例えばブラザー工業は、ミシンや編機がまだ順調だった1961年に、これらの機器の製造技術を生かして欧文タイプライターに参入。その後70年代から80年代にかけてミシンやタイプライターの電子化を進め、それがプリンターや複合機などの新事業につながった。

また同社は1986年に、通信によるパソコンソフト自動販売機のサービスを始めている。機械にお金を入れると、ソフトをダウンロードしてフロッピーディスクなどに書き込んでくれるというものだが、この事業は時期尚早ですぐに撤退。しかし、そこで培ったコンテンツ配信技術やインフラが、冒頭で触れた通信カラオケJOYSOUNDを誕生させたのだ。

その他にも本書には、写真プリントの酸化による色あせを防ぐ技術を応用して化粧品事業を始めた富士フイルムなど、興味深いエピソードが満載。切羽詰まった時、いやその時を見越して、いつ、何をするか。企業経営以外の行動や意思決定のヒントももらえそうだ。

今回の評者 = 吉川清史
情報工場SERENDIP編集部チーフエディター。8万人超のビジネスパーソンをユーザーに持つ書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」の選書、コンテンツ制作・編集に携わる。大学受験雑誌・書籍の編集者、高等教育専門誌編集長などを経て2007年から現職。東京都出身。早大卒。

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