ひらめきブックレビュー

ユニクロが売れる理由 「おしゃれ嫌い」がトレンドに 『おしゃれ嫌い』

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カジュアルで、低価格。老若男女問わず手軽に着られるウエアとしてポピュラーなファッションブランド、ユニクロ。現代で「ユニクロの服を着たことのない人」を探すのは、かなり難しいのではないだろうか。

価格が安いアイテムなら他にも同類のブランドが数多くあるのに、それらとは一線を画して、ユニクロがこれほどまでに浸透したのはなぜだろう。本書『おしゃれ嫌い』は1980年代から2019年までの日本のファッショントレンドを通して、その理由を探っている。著者の米澤泉氏は甲南女子人間科学部文化社会学科教授で、女子学(ファッション文化論、化粧文化論)を専門としている。

■ユニバレは恥ずかしい?

副題は「私たちがユニクロを選ぶ本当の理由」だ。著者は、ユニクロの特徴として、ベーシックなデザインと豊富なカラーバリエーションを挙げている。ユーザーはニットやパンツ、シャツなど単体のアイテムを「部品」として組み合わせ、着用することができる。ユニクロの商品はコーディネートのしやすさが「売り」だ。

そして何といってもユニクロを印象づけるのは「機能性」だ。ヒートテック、ウルトラダウン、エアリズムなど防寒・涼感の機能をもつ素材が開発・製造され、大ヒットした。だが、こうした「完成された部品」に徹したため、ユニクロはファッション性の弱さという欠点も抱えている、と著者は指摘している。

平成初期、まだ人はファッションに競争や「特別感」を求めていた。ゆえにTVCMや新聞折り込みでよく目にする大衆的で個性のないユニクロを着ているとバレる「ユニバレ」を嫌がる風潮があった。しかし2011年、社会の意識は大きく変化する。東日本大震災を契機に、他者と競って流行を追うのではなく、倫理的な正しさを志す「エシカル」やエコに向かったのだ。人はフェアトレードの服を身にまとい、オーガニックな野菜を摂取するなど「ていねいなくらし」と、それを実践する企業を支持し始める。「服はむしろ少ない方がおしゃれ」という思想も高まっていった。

■「インスタ映え」時代のファッション観

震災以降、ユニクロは大々的な戦略「ユニクロイノベーションプロジェクト」を発表。先進的な素材と高い技術を生かしながら、国内外の実力派デザイナーのもと、普遍的なデザインを創出していく。そして、着る人それぞれのライフスタイルに調和するためのブランドづくりへと挑戦し始めた。

「インスタ映え」がトレンドとなった平成後半は、互いに繋がり、共感を得たい欲求が人の心をかき立てた。服は人を差異化させるためのアイテムではなく、周囲と共感して同調されるためのものとなった。

「服にお金や時間をかけず、暮らしを大切にすることで倫理的に正しくありたい」。「ファッションは特別なものではない。誰もが買えて着られ、皆が共感するものだ」。こうした新たな価値観は、ユニクロのビジョンそのものだった。「ユニバレ」は恥ではなく、「ユニクロが良い」の時代が訪れたのだ。

遊び心から個性豊かなファッションを楽しむ「しゃれ」の時代は終わりを迎えた。つまり今のおしゃれは、以前のおしゃれとは性質が異なる。むしろ「おしゃれ嫌い」と呼ぶべきものかもしれない、と著者は語る。今後、わたしたちの感覚は「おしゃれ嫌い」のままなのだろうか。新たなトレンドが到来する次のステージで、ユニクロが何を仕掛けるか見届けたい。

今回の評者=増岡麻子
情報工場エディター。住居・建築・インテリア関連のイベント、コンサルティング事業を展開する複合施設に勤務する傍ら、書籍ダイジェストサービス「SERENDIP」エディティング・チームでも活動。東京都出身。

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