弱みにこそヒント クジャクの羽で知る新ビジネスの種第44回 ハンディキャップ理論

ハンディキャップにこそ価値がある

ハンディキャップ理論は、個体にとって非適応的な性質が、種全体にとって適応的であるという、進化のメカニズムを説明するものです。この話を、私たち人間にあてはめて考えると、新しいビジネスのヒントが見えてきます。

たとえば、障害や老化というのは、個人にとっては明らかなハンディキャップです。今の社会は、健常者や現役世代などの平均的な人をターゲットにデザインされており、不便を感じながら暮らさざるをえなくなります。

ところが、こういった「極端な(エクストリーム)ユーザー」が感じる不便は、「平均的なユーザー」が抱いている、隠れたニーズの一つの現れなのかもしれません。また、その不便を乗り越えようと培った創意工夫は、今の生活や社会を改善する上でのヒントを示唆している可能性があります。

つまり、非適応的な性質を持った人たちは、人類という種全体の「水先案内人」であるとも言えるのです。そういう人がいるからこそ、よりよい社会に向けて進化をし続けることができるのだと。これが、最近注目を集めている「インクルーシブ・デザイン」の考え方です。

今まで除外されていた極端な人たちをデザインプロセスの上流から巻き込み、「平均的なユーザーが気づかない市場の巨大な潜在ニーズを察知して、新たな地域の政策や新規産業創出に活用し」(井坂智博)ようというものです。まさに、ハンディキャップが価値を生むわけです。

セルフ・ハンディキャップに逃げ込まない

ハンディキャップ理論の話をすると、「セルフ・ハンディキャップ」と混同する人が出てくることがあります。誤解がないよう、解説を付けくわえておきます。

たとえば、テスト前になると部屋の模様替えや机のまわりの整理をし始める。勉強をやらなくてはいけないと分かっていて、つい夜遅くまでゲームやテレビに興じてしまう。そんな風に、本来やるべきことの障害となることを、わざわざやり始めてしまう経験がないでしょうか。

これが「セルフ・ハンディキャップ」です。そうしておけば、試験の結果が悪かったときに、「ちゃんとやれば、もっと点を取れた」と自分に言い訳ができ、ダメージが減らせます。「全然やっていない」と周囲に告げ、予防線を張るのとセットになることが多くなります。

いわば、自分の自信のなさからハンディキャップに逃げ込んでしまう習性です。弱みを強みとして誇示するハンディキャップ理論とは、ある意味で真逆のものです。

セルフ・ハンディキャップを使えば、自尊心を保てるかもしれません。しかしながら、下手をすると言い訳癖がついてしまい、努力や改善をしなくなってしまいます。

私たちがやるべきことは真逆です。「今度は100点を目指す」とあえて困難な課題を宣言し、進捗を聞かれたら「完璧!」と言い切る。そうやって自分を追い込まないと本当の力が引き出せないというのも、ハンディキャップ理論が教えてくれることの一つではないでしょうか。

堀公俊
日本ファシリテーション協会フェロー。大阪大学大学院工学研究科修了。大手精密機器メーカーで商品開発や経営企画に従事。1995年からファシリテーション活動を展開。2003年に日本ファシリテーション協会を設立、研究会や講演活動を通じて普及・啓発に努める。著書に「ファシリテーション入門第2版」「会議を変えるワンフレーズ」など。

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